「みんなが発言できる時間をじゅうぶんにとるという意味でも少人数での授業をやっています。発言するのを待ってもらえたり、発言のチャンスが何回もあったりするような環境づくりを意識しています。探究する学びのひとつのプロセスであるディスカッションをやりやすくする仕掛けです」
なぜ“学校ではない学校”をつくろうとしたのか
TSCの教育理念は、それまでの久保さんの経験から導きだされています。
「大学を卒業して入社した企業で13年間勤めましたが、そのうち6年半は人事を担当して、新卒者の採用とか研修もやりました。そこで気になっていたのが、一流といわれる大学を卒業して、たしかに頭はいいけれど自由な思考ができない若者が多い、ということでした。その根本的な原因は学校教育にあるのでは、と考えるようになりました。ずっと日本の教育がダメだったわけではなくて、ある時代においては成功モデルだったはずですが、時代が変わってきて、合わなくなってきている部分が目立ちはじめているのではとおもっていました」
戦後の日本経済は急速な成長を遂げ、とくに1955年ごろから1973年ごろまでは高度経済成長期と呼ばれ、実質経済成長率が年平均で10パーセント前後を記録していたほどでした。2024年が0.5パーセントだったので、まるで夢のような経済成長だったわけです。その成長を支えていたのが、質の高い製品を効率よく生産する日本の工業力でした。それには与えられた仕事を従順にこなしていく人材が必要で、そういう人材育成を学校教育も目指していました。
しかし高度経済成長期も終わり、世界的にも経済が成熟していくなかで、画一的なモノづくりでは経済を支えられなくなってきています。独創的で画期的な製品づくりができなければ、世界的な競争に太刀打ちできないのです。ところが教育は相変わらず高度経済成長期のなごりを引きずったままで、新しい時代が求める人材を育成できていないのが現実です。
そこに疑問を感じていた久保さんが創立したのがTCSだったのです。