保護者が授業料の値上げを提案

 とはいえ、学校経営は簡単ではありません。なにより経済的負担が大きい。校舎となる建物を借りるにも賃貸料が発生します。学校教育法で認められた一条校(いわゆる既存の小学校)であれば国や自治体からの補助が出ますが、そうではないTCSのような“学校でない学校”は「自前」で賄(まかな)うしかありません。

「学校を始めるにあたって運営費を計算すると、どうしても毎年200万円くらいの赤字になる計算でした。その分は、私自身が負担することにしました。3年で経営を軌道に乗せることを目指し、それまでの600万円の赤字分は負担しようと決めたのです。実際には年間180万円くらいの持ちだしでした」

 それで4年目から黒字に転じればよかったのですが、そうそう目論(もくろ)みどおりにはいきません。4年目を迎えるにあたって総会を開いたときのことです。TCSは認定NPO法人なので、会社なら株主総会にあたる総会を開いて、運営方針等について会員に了解してもらわなくてはなりません。そこで4年目の経営計画を示したのですが、それは年間100万円の赤字になるというものでした。

 それに対して、会員でもある保護者から意見が出たそうです。久保さんの経営責任が追及されたのかといえば、そうではありませんでした。「ちゃんとした教育を実施していて、おカネの使い方も健全にもかかわらず、赤字というのはおかしい」というものだったのです。

 さらに保護者からは、「赤字なのは単純に運営にかかる費用と授業料が合っていないからで、授業料を値上げすべきだ」という声が上がりました。そして、それまで年間72万円だった授業料を約100万円にすることが決まり、それによって赤字にならない経営計画になりました。授業料は1円でも安いほうが助かると考えるのが保護者のはずで、値上げを要求するというのは珍しすぎる話です。それだけ、TCSでの学びが保護者に評価されているということなのです。