疲れの放置は病気やうつを招く
疲労アラームを見逃さない

 交感神経優位な状態が長時間続くと、脳が疲労を知らせるアラームを出すということはすでにお話しした通りです。アラームを無視し、休息や睡眠をとらずに活動を続ければ、だるさや眠さ、さらに頭がぼーっとするといった症状が現れます。それだけにはとどまらず、血圧に変化が起こり立ちくらみがしたり、バランス感覚を失いふらついたりすることもあります。こうした症状は自律神経の乱れが原因で起こる「自律神経失調症」と呼ばれ、放置すれば深刻なダメージを引き起こします

 自律神経失調症が引き起こす症状にはさまざまなものがあります。原因不明のめまいや頭痛、肩こりや首の痛み、食欲不振といった身体的な不調に加え、気分の浮き沈みが激しくなったり、常に不安を感じイライラしたりするなど、感情のコントロールにも影響を与えます。慢性的な疲労感や痛みがあれば、日常生活に支障をきたすばかりか、孤立感や無力感が強まり、うつ状態に進行するリスクも少なくありません。

 のちほど詳しくお話ししますが、自律神経のバランスを整えるためには、十分な睡眠をとるなど、生活習慣の見直しが必要です。何より大切なのが、脳が発している「疲れ」のアラームを見逃さないこと。疲れを感じたら、無理せず休むことを心がけましょう。

脳疲労の悪循環が深刻な病気を引き起こす
生活習慣病は疲労からはじまる

 長期間の脳疲労が原因の自律神経失調症は、生活習慣病とも関係しています。疲労を放置すれば、日本人の三大死因(高齢者に多い肺炎は除く)の「がん(悪性新生物)」、心筋梗塞などの「心疾患」、脳梗塞や脳血栓などの「脳血管疾患」のリスクが高まる恐れがあるのです

 脳、とりわけ自律神経の疲労やストレスが長期化すると、内分泌免疫系が自律神経の機能低下を補完しようと活動を高めます。例えば、脳は副腎皮質という器官からステロイドホルモンの「コルチゾール」を分泌させ、心拍数や血圧、血糖値の調整などを行います。つまり、自律神経の働きをサポートし、ホメオスタシスを維持しようとするわけです。ただし、コルチゾールには血圧を上昇させる作用があるため、過剰に分泌されると血管にかかる負荷が増大し、血管の老化を招きます。血管の老化は動脈硬化につながり、生活習慣病の引き金となるのです

 さらに、血糖値を調整するインスリンの働きを低下させる「インスリン抵抗性」を引き起こすこともあります。その結果、高血糖や肥満のリスクが高まり、糖尿病や高血圧、脂質異常などにつながる恐れも。疲労が慢性化すると免疫系にも大きなダメージを与え、インフルエンザなどの感染症にかかりやすくなるうえに、がん細胞の増殖を招く恐れもあります