横田 そんな空気を察知して、ああいう発言をされたとしたら、本当に素晴らしい一言ですよ。

栗山 そうですね。とにかく勝ちに行くんだと。そのために翔平はこちらの無理も全部聞いてくれましたし、どうしても勝ちたいという気持ちがあの言葉に表れていました。それがチームに与えた影響も大きかったですね。

監督の仕事は危機管理
大谷の「覚悟」に賭けた

横田 決勝戦の最後は大谷選手がマウンドに上がり、マイク・トラウト選手との一騎打ちになりましたね。あの場面をご覧になっているときの監督は、大谷選手が抑えてくれると微塵も疑いがなかったわけですか?

栗山 そうですね。管長も同じだと思いますけれど、監督の仕事っていうのは危機管理なんですね。最悪の状況でも負けないようにすることです。

 あのときは3対2と1点リードで迎えた9回表に大谷翔平をマウンドに上げて、野手も2人交代して守備固めに入りました。試合が終わったあとで周りから「もし同点になったらどうしたんですか」と聞かれたんですけれど、僕があそこでほんの1ミリでも同点になるとか負ける可能性を頭に描くと、その通りになってしまうと思ったんですよ。

 だから、絶対にこのイニングで終わらせるというメッセージを全員に伝える意味も込めて守備も代えたんです。そのくらい翔平の覚悟みたいなものも感じていましたし、彼がマウンドに上がった瞬間、勝ったと思っていました。

横田 なるほど。私は野球は全くの素人ですけれども、トラウト選手との一騎打ちにしても、両者ともメジャーリーグを代表する選手ですから技術の差はほとんどないと思うんです。でも、テレビの画面を見ながら私は大谷選手の気というものを感じました。

 監督もよくお読みになっているという『孟子』に「浩然の気」という言葉が出てきますね。これは大河が滔々(とうとう)と流れていくような、この上なく強く大きくそして真っ直ぐな気のことですけれども、大谷選手にそういうものを感じたんです。