横田 そのときに、基調講演をされた先生が講演の最後にこうおっしゃったんですね。「皆さん、憧れるのをやめましょう。一休に憧れているようでは、一休は超えられません。今日はこれを言いたかったんです」と。
それを聞いて驚きました。大谷翔平選手がWBCの決勝の前に選手たちに向かって言った言葉が野球と全く縁もゆかりもないような禅の世界に影響を与えている。これはすごいことだなと思いました。
栗山 ありがとうございます。翔平に伝えさせていただきます(笑)。
「憧れるのをやめましょう」
決勝前に発した名言の舞台裏
横田 あのとき大谷さんは「憧れるのをやめましょう。憧れてしまっては超えられないので、僕らは今日超えるために、トップになるために来たので、今日一日だけは彼らへの憧れを捨てて、勝つことだけを考えていきましょう」というようなことを言われましたね。監督にお聞きしたいのですが、これはあらかじめ考えていた言葉がポンと出たんでしょうか。
栗山 実は、試合前の円陣で誰が話すかということはあらかじめ決まっていました。ただ、話す内容については本人に任せていました。そんな状況の中で翔平は「憧れるのをやめましょう」って言ったんですね。僕らも選手たちも、あの言葉はすごくインパクトがありました。
横田 そうでしたか。それでは大谷さん本人が、その時のチームの状況や雰囲気を察して発した言葉だったんですね。
栗山 はい。そしてその彼の言葉で間違いなくチームの雰囲気がキュッと締まりましたね。
横田 あの言葉は歴史に残るくらいの名言じゃないかと思いますよ。
栗山 本当にそうですね。正直に言うと、アメリカとの決勝戦の直前練習をしているときに、翔平が指摘した“憧れる”ような空気がちょっとあったんですよ。アメリカ代表の選手は野球人ならみんな知っている年俸何十億というスター選手ばかりです。そういう選手を目の前にして「一緒に写真撮ってほしい」というような声も聞こえてきました。