「空気で答えを出す会社」を
ダイキン社員が本気で実践する理由

 ただ、志だけが空回りしても、答えはなかなか出せない。パーパスを実装するためには、さらに2つの十分条件を満たさなければならない。

 1つ目は「アルゴリズム=仕組み」だ。筆者はダイキン100周年に向けたインタビュー(※注2)を受けた際に、次のように解説したことがある。

「どこに向かうかを示すパーパスが重要である一方で、企業にはアルゴリズム=仕組みが必要だと考えています。現場で行われていることをきちんと因数分解し、自分たちの価値のつくり方を会社の中でしっかりと仕組み化して、進化させていくことが欠かせないのです。こうした現場のノウハウを『型化』していることが優良企業の強さであり、ダイキンが海外市場で業績を上げているのも、現場の力を型化できているからなのです」

 そしてもう一つの十分条件が、「エンゲージメント=一体感」だ。ダイキンの社員は、空気で答えを出すことに、狂信的なまでにこだわり続ける。まさに「空気教」の信者になりきっているのだから、半端ではない。

 では、どうしてそのような本気度を醸成できるのか。その秘密が、もう一つのダイキン流経営の真髄である「人基軸」にある。

「人を基軸におく経営」は、創業以来、ダイキンの長年の企業活動の中で脈々と培われてきたDNAである。同社ホームページでは、次のように説明している。

「人の持つ無限の可能性」を信じ、「企業の競争力の源泉はそこで働く『人』の力である」、「従業員一人ひとりの成長の総和が企業の発展の基盤である」という信念のもと、働く人の意欲と納得性を引き出し、一人ひとりがみずからの個性を磨き高め、能力を最大限に発揮して、成長することによって、組織としての力を徹底して高めていこうとする考え方です。

 日本でも政府や御用学者、そしてマスコミがこぞって、「人的資本」の重要性をにわかに喧伝し始めている。同じグループが、つい最近まで英米流の株主資本主義へのシフトを説いていたのだから、節操のない話だ。しかし、そのような表層的な風潮に踊らされない優良な日本企業は、とっくの昔から人を基軸とする経営を実践してきた。