井上前会長が実践した
「野人経営」の神髄とは?

 そしてダイキンは、そのような日本流経営の代表企業である。先のホームページは、次のように強調している。

 世の中に「人を大切にする」と言わない企業はありませんが、ダイキングループは、この点についてとことん本気になって取り組むことで「人を基軸におく経営」を、競争優位の源泉のひとつにしたいと考えています。

 きれいごとではなく、この「とことん本気」で取り組むという愚直さこそが、ダイキンの真骨頂である。たとえば、「べたつき営業」。徹底的などぶ板営業で顧客に尽くす。先進国であろうが、新興国であろうが、この営業手法を現場に徹底的にすりこむ。これが先述したダイキン流営業の「型化」である。

 しかし、単に型を実行するだけでは進化はない。そこで基本を習得したうえで、現場の実情や環境変化に応じて、臨機応変に新しいことに挑戦することを奨励する。そしてそのような現場から生まれてくる創意工夫の中で、スジがいいものだけを新しい「型」に落としていく。まさに現場レベルでの守破離を高速回転で回しているのである。

 井上前会長は、そのような社員を「野人」と称する(※注3)。

「野性味があふれていて一匹おおかみで、上司の言うことを聞かずにやりたいことをやっている社員です。ダイキンには性善説に基づいて『出る杭は認める』文化があります。褒めることはあっても罰は少ない。だから、好き勝手にやる社員は多いし、やってるやつが育つ。ダイキンに入社したら、人は丸くはならないのです。

 自主性を尊重し、社員にはどんどん修羅場を与えて挑戦させていきます。だから、みずから考える習慣もつく。入社間もない新人社員でも、あるテーマについて詳しいならその人が中心となって議論し、上司はアドバイザー役に回ります。そうしてみんなで議論をした上で最後に決めるべき人が決める。決まった以上は反対意見の人も賛同して実行する。我々はこれを『衆議独裁』と言っています。

 激しい議論をしてぼろくそに言い合いながらも、やり取りにはどこかぬくもりがある。そういうのを大事にしている会社です」

 ここにも、いくつかダイキン流経営のキーワードが出てきている。「性善説」「出る杭は認める」「修羅場」「衆議独裁」そして「ぬくもり」。このような人間臭さをプンプンさせたところこそ、ダイキン流「野人経営」なのである。

【引用文献一覧】
・注1:日経ビジネス電子版の記事『ダイキン十河社長「売上高4兆円でも我々は中小企業」』(2024年3月22日)より
・注2:東洋経済オンラインの記事『パーパス経営を実践している企業の共通項とは』(2024年2月28日)より
・注3:日経ビジネス電子版の記事『ダイキンを空調世界一にした井上礼之会長「社員を『野人』に育てる」』(2024年3月25日)より