歴史的記憶のリフレッシュが必要
記憶を呼び戻す鍵となる存在

 時代も国も国民も、ボケるということがあるのです。昨日のことはよく覚えているけれども、何十年も前の話はまったく知らない、ボケた社会。

 そうならないためにはどうするか。歴史的記憶は常にリフレッシュする必要があります。つまり、昔のことを冷静に淡々と、話を盛らずに語れる年長者の存在がすごく大事になるわけです。

 目の前のことがスムーズにできない年長者でも、昔のことは明瞭に語れる。これは1つのよりよいボケかただと思います。そのために、やはり努力をしてほしいのです。

書影『遊行期 オレたちはどうボケるか』(朝日新聞出版社)『遊行期 オレたちはどうボケるか』(朝日新聞出版社)五木寛之 著

 先ほど述べたように、過去の記憶を明確にしておくには、人に語る必要があります。ただ、昔話をすると「もうおじいちゃん、その話は3度聞いたわよ。こうなってこうなって、最後はこうなるんでしょ」などと孫に嫌がられたりする。

 しかし、そうなるのは話し方に工夫がないからなんですね。昔話をするときに大事なのは、起承転結、おもしろく、新鮮な構成でもって語っていくことです。前と同じように話を繰り返してはダメ。それは怠惰であり、いわば悪いボケです。

 常に現在の視点から過去の出来事を分析して、今の若い人たちにも関心を持たれるような語り口で昔話をする。そういう努力をすることも、私の言う、よりよいボケかたなのです。