顔も声もちゃんと浮かぶし、身振りまでちゃんと見えるのに、その人の名前が出てこない。本当によくあることです。
ご婦人方が集まって喫茶店でおしゃべりをしている。
「ほら、あの人」
「そうそう、あの人ね」
「あの人、どうしても名前が思い出せないのよ」
「顔までは浮かぶんだけど」
「いやだー、みんなボケたわね」
このへんで大笑いになるけれども、確かにボケの1つの兆候ではあるでしょう。
放置すると良くない物忘れ
繰り返し語ると記憶が鮮明に
高齢者にとって、物忘れはいちばん初歩的なかたちでボケを意識する始まりです。
私も物忘れはしょっちゅうあって、ボケの入り口に立っているのではないかと思ったりします。
こうした固有名詞の記憶の喪失が初歩のボケだとしたら、それに対してどうするか。「放っておく」というのがいちばんよくないと思います。
その場にいるみんなが思い出せないのだから「まあ、いいか」と、自分も思い出さないままにしている人が多いのではないでしょうか。どうも物忘れは伝染するようで、ひとりが思い出せないと言い出すと、みんな一斉に出てこなくなる。
やはり何とかして記憶を探し出したほうがいいと思います。自分で調べるとか知っていそうな人に電話をかけて聞くとか、とにかく執念深くちゃんと思い出したほうがいい。「放置しない」というのは、ある意味、現実的なボケ対策の1つの戦略と言えます。
年をとると、昨日のことを覚えてない、今朝食べたご飯のおかずを覚えていないといった物忘れは、しょっちゅうあります。
私も今日の約束の時間を忘れて、5時だったか6時だったか、それとも5時半だったかなどと確認することがよくあります。
こういう近い時間の記憶喪失がある一方で、自分の子どもの頃などを覚えていない遠い時間の記憶喪失もあります。
出会った高齢者、あるいは私自身のことを考えると、どうやらその2つの記憶は両立しない。昔のことをすごくよく覚えている人は、今のことが曖昧。今のことについてシャープな人は、若いときの話を聞いても漠然としています。
曖味な記憶をはっきりさせるには、自分の記憶を繰り返し人に語るとよいと思います。