カネカの組織が持つ
「3つの強み」とは?
1つ目が、多様性に富んだ個の力だ。カネカは生命科学を追究する企業として、「DNAのダイバーシティ」「変化を起こす多様なDNA人材が集まる会社だけが生き残る」という信念を掲げる。現場での異質な気づき、すなわち「ゆらぎ」が、変化の起点となることを熟知しているからだ。社員一人ひとりのDNAを活性化させる目的で、早い時期から1オン1(ワン・オン・ワン)も実施し、進化させてきた。
そして、現場での創意工夫に基づく挑戦を重視する。大量に試して、よいものだけを残すことで、社会の課題を一日でも早く解決することを目指す。カネカはそのような姿勢を「実験カンパニー」と呼ぶ。
2つ目が、異質な個を「つなぐ」力だ。シュンペーターによれば、イノベーションは異質な知の掛け算、すなわち「新結合」によって生み出される。筆者は異質性を強調するために、それを「異結合(クロスカップリング)」と呼んでいる。
カネカは創業以来、「仲間を信じ違いを尊重する(Trust People & Mutual Respect)」を大切にしてきた。2009年には「カネカユナイテッド宣言」の中で、真のワンチームとして未来に向かうことの必要性を改めて強調している。さらに内側だけでなく、外の異質と新結合するM&Aやオープンイノベーションを加速させている。
この2つの力は、遠心力と求心力と呼ぶことができる。最近の流行語で言えば、ダイバーシティ&インクルージョンだ。しかし、それだけでは真のイノベーションは生まれない。そこには3つ目の力が必須となる。
それは大きく「ずらす」力だ。イノベーションを生み出すためには、ゼロから1を生み出すだけでなく、1から10、10から100へとスケールさせていかなければならない。そのためには需要と供給、すなわち市場創造とサプライチェーンの構築が必須となる。カネカは、そのような市場創造と事業創造のための投資も果敢に実践してきた。
複雑系科学によれば、「ゆらぎ・つなぎ・ずらし」は、生物が進化するための基本的なダイナミズムである。バイオに精通しているカネカは、この生物の基本法則を取り込むことにより、「夢」を実装することを心掛けているのである。
カネカ発のイノベーションは、枚挙にいとまがない。今回はその中から、社会的なインパクトの大きいケースをご紹介したい。「カネカロン」という素材を使ったつけ毛(ヘアエクステンション)によって、アフリカ女性の夢を実現したストーリーである。