なぜコメの価格が高騰しているのか

 3月以降、政府は備蓄米を放出してきた。それでもコメの価格は高騰している。農林水産省の「スーパーでの販売数量・価格の推移(POSデータ全国)」を確認してみよう。

 5月5日~11日の週、国内での平均的なコメの小売価格は5キロ当たり4268円だった。4月28日~5月4日は18週ぶりにコメの価格は下落したが、その後は再び値上がりしている。

 ここ30年の間、わが国のコメの価格は基本的には下落してきた。5年ほど前には5キロ2000円を下回ったこともある。それがなぜ今、コメの価格高騰が続いているのか。

 背景には、コメ農家の減少で産出量が増えていないことがある。特に、昨年は異常気象の影響もあり、コメの収穫量は伸び悩んだ。供給が伸びない一方で、海外からの観光客などの増加、インバウンド需要によって、コメの消費量は増加した。

 その結果、コメの需給はタイトになり、価格は上昇しやすい状況になった。そこに目を付けた一部の業者が在庫量を増やしたこともあり、価格の上昇傾向が目立つようになった。

 商機を察知して、従来はコメを取り扱っていなかった事業者がコメ取引に参入した。報道によると、IT系の企業やスクラップ業者が農家から直接コメを買い入れたようだ。また、一部の消費者が、スーパーなどで購入制限のない段階でコメを買い占め、ネット上で転売するケースも増えたと聞く。こうした状況は、コロナ禍初期のマスク買い占め騒動に似ている。

 このような動きに対して、政府の備蓄米放出のタイミングは遅れた。価格上昇が顕著になった後から放出を始め、しかも通常の入札方式だった。これでは価格の安定にあまり効果は見込めない。今のところ備蓄米放出は想定された効果を上げていない。

 農水省は、「競争入札」方式で備蓄米の放出を行った。競争入札では、最も高い価格を提示した業者から先に政府と契約することになる。コメの価格に先高観があるので、入札した業者は高値での売却を狙おうとする。彼らには、落札した備蓄米を抱え込むインセンティブがあるといえる。

 入札結果によると、特定の業者が90%以上を落札した。しかも、出荷は滞っている。わが国のコメ流通システムは非効率で、それも価格高騰の要因になったとみられる。