それでも私にうるさく言われ続けて、渋々、小声で言うようになった。私は「まだまだ!」「声が小さいよ。声が小さかったらゴミに聞こえないよ!」と言い続ける。怖い顔をして言っている社員には、「笑顔で!そんな怖い顔をしていたら感謝にならないよ」と。
「大きな声で!」「笑顔で!」「頭を下げるのは30度で!」と細かく指導した。

意地で続けたあいさつ指令は
社内に浸透するまで10年かかった
社員たちは私がおかしくなったと思ったかもしれない。しかし私は、社員にケガをさせたくないというのが本音だった。ゴミを卑下して蹴っ飛ばして、足を悪くして、一生引きずるようになったら、この人たちは年を取ってからどうなるのかと、それだけが心配だったのだ。とにかくケガだけはさせたくない。
もっと自分を大切にしてほしい。仕事への取り組み方も考えてもらいたかったのだ。そのために考えたのが、ゴミに感謝する、お礼を言うことだった。もちろん、相当、抵抗はあった。
私もなかば意地になり、社員1人ひとりに「言ってくれた?」「言ってくれた?」と聞いてまわる。そんなことが長いあいだ続いた。
お客様のところで収集したゴミは、輪之内リサイクルセンター(編集部注/1994年、名晃が設立した廃棄物分別所。収集した廃棄物をここに集めて再資源化に取り組んでいる)に集められて仕分けされる。それは「みんな、ちゃんと仕事をしているかな」と見に行った日のことだった。
現場事務所にいると「ご苦労様でしたー」という大きな声が聞こえてきたのだ。私が驚いて事務所から飛び出していくと、現場の社員4名と、重機を運転している社員1名が、ゴミに向かって深々と頭を下げているではないか!
私は感激して「ありがとうー」と叫んだ。すると、重機を運転していた社員がマイクを通して「社長、プレイボールですよ!」と言ったのだ。