ゴミに頭を下げて「ご苦労様でした」とねぎらい、感謝することで、彼らの心の中でも何かが確実に変わったのだと思う。ここまでくるのに10年ほどかかったが、その後はゴミを蹴ることがなくなり、ケガする社員もいなくなった。ほどなく交通事故も減った。

どんなゴミも最初から
ゴミだったわけではない

 最初は誰も理解してくれなかった、ゴミに一礼するという習慣。ケガの防止という観点ともうひとつ、私は「ものを大切にすること」を折にふれて話してきた。

 たとえば、目の前に30年間使ったボロボロの事務机があるとしよう。新しい机を購入したからと、名晃に電話がかかってくる。「名晃さん、このボロ机、処分したいんです。早く引き取りに来てください」と。

 すると、社員がみんなシュンとする。昨日まで大事に使っていたものが、今日はゴミになってしまい、その途端、邪魔者扱いで処分される。

 しかし、どんな人にも価値も役割もある。ゴミであっても、ゴミになる前は役割があったはず。「とにかく、このゴミたちに、せめてわれわれ名晃の社員だけでも頭を下げて『ご苦労様』と言っても、バチは当たらないよ」と言ったのだ。

 すると、みんなが神妙な顔つきになってくる。「われわれが『ご苦労様でした』と言って頭を下げたら、このゴミはどれだけ喜んでいることか」と言って、ちょっと喝を入れる。

 それから1人が頭を下げるようになる。1人がやり始めると、また1人、1人とあちらこちらでやり始める。全員が頭を下げるまでには長い年月がかかったが、今ではこれは名晃の伝統になっている。
この様子は名晃のホームページに動画がアップされているので、ぜひご覧いただきたい。

「何ですか、それ?」社員総スカンでも社長が押し切った「7文字のあいさつ」同書より転載