「リファレンスチェックを行うときは、事前に候補者の同意が必要なんですね。中には同意を拒否されることもありますか?」
「はい。同意をする・しないは候補者の自由です。確かに職歴や勤務態度に問題があったことがバレるのを嫌がる人はいますが、『前職も在籍期間が短いなどの理由で推薦できる人がいない』『推薦者への依頼などの事前準備が間に合わない』などの事情で断られるケースもあります」
「調査を拒否されると、ウチとしては採用するか否かの判断の際マイナスに働きますよね」
「それは確かにあるでしょう。しかし同意を拒否された場合は『拒否イコール不採用』ではなく、理由を聞いた上でその都度対処すればいいと思います」

 E社労士のアドバイスを受けたD部長は、翌日乙社に電話しB部長に「Cの同意がない限り調査には応じられない」と返答した。また、総務主任の採用時にリファレンスチェックを導入することを決定し、手順マニュアルや同意書の作成、就業規則の変更などの作業に取り掛かった。その様子を遠巻きに眺めていたA課長はため息をついた。

リファレンスチェックが普及すると?

「リファレンスチェックかあ……」

 社内で知る人はいないが、A課長は3カ月前からひそかに転職活動中だった。転職エージェントに登録し、すでに複数の会社から面接のオファーをもらっている状態である。

 甲社の営業部門は扱う製品や担当地域によって10のチームに分かれており、A課長が率いる営業チームの成績は中位。営業本部長からは毎月の管理職会議で「もっと成果を上げるように」とハッパをかけられていた。昇進した当初は業績アップのため意欲的に取り組んでいたものの、自らの担当取引先と部下のフォローで主任時代より残業が増え、疲労困憊状態に。しかも課長は残業代が出ないので月給の手取り額はほとんど増えなかった。次第にやる気を失くしたA課長は転職を真剣に考えるようになったのだが……。

「いくら面接で『優秀な管理職でした』ってアピールしても、本部長にリファレンスチェックをされたらダメダメのオンパレードに違いない。これはヤバイぞ!せめて今からでもがんばって『デキる課長』になろう。まずは部下が扱っている未成約の案件を全部フォローするところから始めるか!」

 自席に戻ったA課長はパソコンを開き、部下20名分の業務日報を隅から隅までなめるように読み始めた。