日本独自の強みを取り戻せ

ヘンリー:日本の強みだったはずのカイゼンは、その後どうなっていますか。

名和:トヨタなど優良企業の間では、脈々と生きています。しかし、日本企業の多くは、戦略がないことが日本の失速の原因だと勘違いして、アメリカ流の戦略論を世界標準と崇めて物真似経営に走っています。

ヘンリー:それはとても残念ですね。日本が本来持っていた強みを捨てて、アメリカ流に走ってしまったことこそ、日本の失速の真因ではないでしょうか。

 でも、現場にはまだカイゼンの小さな細胞が残っているでしょう。であれば、それこそIPS細胞のようにそれを再生・培養して、組織全体に行きわたらせることができるかもしれません。

名和:それはとても元気の出る話です。再生医療(regenerative medicine)だけでなく、「再生経営」(regenerative management)も、日本でぜひ花を開かせたいものです。

後編へ続く

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ヘンリー・ミングバーグ 氏
マギル大学クレグホーン寄付講座教授兼経営学大学院教授。1939年カナダに生まれる。1961年にマギル大学工学部を卒業後、マサチューセッツ工科大学スローンスクールでMBA、1969年に同大学院にて博士号を取得。1968年から母校マギル大学に戻り、産業界のみならずに政府にもコンサルティングや提言を行っている。著書に『戦略サファリ』(東洋経済新報社、1999年)、『MBAが会社を滅ぼす』(日経BP社、2006年)、『私たちはどこまで資本主義に従うのか』(ダイヤモンド社、2015年)、『ミンツバーグの組織論』(同、2024年)などがある。経営思想界のアカデミー賞といわれるThinkers50で3人目となる生涯功績賞(Lifetime Achievement Award)を受賞。

名和高司 氏
東京大学法学部卒、ハーバード・ビジネス・スクール修士(ベーカー・スカラー授与)。三菱商事を経て、マッキンゼー・アンド・カンパニーにてディレクターとして約20年間、コンサルティングに従事。2010年より一橋ビジネススクール客員教授、2021年より京都先端科学大学教授。ファーストリテイリング、味の素、デンソー、SOMPOホールディングスなどの社外取締役、および朝日新聞社の社外監査役を歴任。企業および経営者のシニアアドバイザーも務める。2025年2月に『シン日本流経営』(ダイヤモンド社)を上梓した。

阿部裕志 氏 
京都大学大学院修了。トヨタ自動車の生産技術エンジニアとして働くが、競争社会のあり方に疑問を抱き、持続可能な社会のモデルを目指す人口2300人の島・海士町(島根県隠岐郡)に2008年移住、起業。トヨタ自動車・NTT・ロート製薬など100社以上が参加するリーダーシップ研修「SHIMA-NAGASHI」を行う人材育成事業を中心に、出版社「海士の風」を運営する出版事業、「海士町創生総合戦略」など島の課題を解決する地域づくり事業を行う。海士町は独自の行財政改革と産業創出・教育改革を進め、20年間で1000人を超える移住者が集う島となった。