5月22日、来日中の経営論の大家ヘンリー・ミンツバーグ教授と、東京・有明のホテルで対談する貴重な機会を得た。85歳という高齢を感じさせない精力的なスケジュールから、1時間をひねり出してもらうのは至難の業。今回教授に同行されている「風と土と」の代表阿部裕志氏のご厚意で、朝食をご一緒させていただくことができた。

 ヘンリー(教授をファーストネームで呼ばせていただく)とは日本でも海外でも、共通の体験や知人が多い。とりわけ、4カ月前に亡くなったジロー(野中郁次郎・一橋大学名誉教授)の卓越した洞察と温かいお人柄を偲んで、ひとしきり話が弾んだ。

 そして会話のトピックは、過去から未来へと移っていった。テーマは「資本主義の未来」「カイシャの未来」「働くヒトの未来」の3つ。まず前編では「資本主義の未来」を取り上げ、その対話の要点をできるだけリアルに再現してみる。(名和高司)

シン民主主義社会を目指す

名和ヘンリーの今回の来日講演テーマは「Rebalancing Society」(社会のバランスを取り戻せ)。同名の自著(邦題『私たちはどこまで資本主義に従うのか』ダイヤモンド社、2015年)を踏まえつつ、トランプ後の未来のあり方を展望するものです。その中で、アメリカ流の株主資本主義も国家主導の社会主義も限界を迎えていると指摘し、自身の母国カナダや北欧、ニュージーランドのような、バランスの取れたシン民主主義社会、ヘンリーの言う「コミュニティシップ」を目指す必要があると唱えています。

ヘンリー:アメリカ経済を立て直す唯一の方法があるとすれば、株式市場を閉じてしまうことだと思います。そして、デンマーク企業やタタのやり方のように、家族や信託の中でコントロールを維持するのです。

名和:デンマークといえば、レゴもカールスバーグも非上場です。そしてROEが80%に近い高業績企業のノボ・ノルディスクも、株の4分の3は同社の財団が持っています。

ヘンリー:グーグルはノボと同じような株主構成をとっています。アメリカでも、株式市場にへつらうことなく、正しく成長する選択肢は有効なはずです。

名和:アメリカ流の株主資本主義に取りつかれている日本にとっても、それはとても大切なメッセージです。最新の拙著『シン日本流経営』(ダイヤモンド社、2025年)では、シン日本流経営の奥義となるキーワードとして、①利他心、②人基軸、③編集力の3つを挙げています(図表)。

図表 シン日本流経営の本質と進化

「シン日本流経営」が資本主義の限界を突破する?出所:名和高司(2025)
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 ヘンリーはこうした日本流の価値、そしてシン日本流の可能性についてどうお考えですか。

「シン日本流経営」が資本主義の限界を突破する?ヘンリー・ミングバーグ 氏 (中央) 、阿部裕志 氏 (左)、名和高司 氏 (右)