高卒で2回起業→いずれも倒産…
創業者が挫折に学んだ教訓とは?
キーエンスの経営理念は、「持続的な付加価値創造」である。キーワードは「持続」「付加価値」「創造」の3つだ。
そもそも持続しなければ、企業としての存在意義がない。滝崎氏は高校卒業後、2回、起業したもののいずれも倒産。29歳で3度目に立ち上げたキーエンス(当時「リード電機」)は、絶対に持続させると心に誓ったという。持続するためには、常に進化し続けなければならない。そのために2つの変数に注目する。顧客と社員だ。前者が「付加価値」であり、後者が「創造」である。
付加価値とは、顧客にとっての価値を指す。キーエンスでは、それが商品価値(すなわち価格)の80%以上でなければならないと決められている。逆に言えば、原価は20%以下。そうでなければ、そもそもその商品や商談は却下。キーエンスが粗利8割を維持し続けているのは、結果的にそうであるというより、初めからそうなるように仕組まれているのである。
その付加価値を持続的に「創造」するためには、明確なアルゴリズムが必要となる。とは言っても、複雑なものではない。〈 P(価格)× V(数量)- C(コスト)〉の面積を最大化するための規律が、組織内に埋め込まれているのだ。
まず、価格をとるためには、顧客すら気づいていない潜在課題を掘り起こし、それを解決することにより、どれだけの経済効果があるかを定量的に示すこと。ボリュームを増やすためには、個別最適解ではなく、初めから他社にも適用可能な「マスカスタマイズ」商品を開発すること。そして、コストを徹底的に削減すること。そのため固定費を抑えるべく、生産は外注し、非生産的な業務を最小化すること。とるべきアクションは、いずれも極めて明確だ。
この付加価値創造プロセスの担い手は、大きく2つの集団に分かれる。
一つは、顧客フロントを受け持つ直販グループ。キーエンスが誇る精鋭のコンサル営業集団である。顧客の本質的な課題をえぐり出し、月に2枚の「ニーズカード」を作成する。ニーズカードには、多くの顧客への展開可能性が示されていなければならない。そのために1日5社以上の顧客を訪問し、仮説検証を繰り返す。
もう一つが、商品開発グループ。ニーズカードを受け取って、必要な要素技術を内外から集め、素早くモックアップ商品を開発、自社の子会社のキーエンスエンジニアリング(旧クレポ)に試作させて直販部隊に球出しする。その結果、顧客の先端的な課題を解決する業界初、オンリーワン商品を生み出していく。
このフロントとバックが直結しており、一連のサイクルをわずか数日間というスピードでこなす。フロントが「市場開発力」を、そしてバックが「事業構想力」を担う。先述したXモデルの理想的な姿である。簡単に言ってしまえば、これが「キーエンスマジック」のからくりだ。