キーエンスの営業マンの能力が
「平均的に高い」納得の理由

 では、3つ目のキー・クエスチョンを考えてみたい。キーエンスでは、これらの原理原則をいかに日々の活動に実装(プラクティス)しているのだろうか。

 キーエンスの社員構成を見ると、6、7割が営業人財。開発人財は2割程度で、そのうち7割は営業出身。つまり、キーエンスの真価は、その圧倒的なソリューション営業力にある。

 キーエンスには、フツーの社員の営業力を組織的にパワーアップさせるための仕組みが幾重にも織り込まれている。その中でも主なものは、次の3つだ。

 1つ目は「ロールプレイング」。社内では「ロープレ」と呼ぶ。先輩社員が顧客の役割を演じて後輩社員に提案させ、プレゼンスキルを鍛える。

 2つ目が「外出・出張報告」。社内では「ガイホー」と呼ぶ。顧客への訪問前に、先輩社員と「事前シミュレーション」を実施。訪問後の結果報告で課題を明確にして、次のアクションを準備する。

 そして3つ目が「営業同行」。まずは先輩社員の営業に同行して学ぶとともに、みずからが営業する際に先輩社員に同行してもらってアドバイスを受ける。

 一つずつは、特に目新しいものではない。しかし、どこも手を抜かず、徹底的に実践することで、社員の成長を促していく。この愚直なまでの現場主義こそが、キーエンスの営業力の源泉なのである。その結果、全員が平均的に高いソリューション営業力を発揮する組織をつくり上げているのだ。

 それを、キーエンスOBの天野眞也氏は、「ライオンキング型」と表現する(※注1)。劇団四季のミュージカル『ライオンキング』は何回観ても感動する。しかし、主人公シンバ役の俳優の名前まで覚えている人は珍しい。むしろ、それぞれの俳優のレベルの高さこそが感動を生み出すのだという。

「営業の皆さんの中には、『営業はアドリブで毎回いろいろな話を臨機応変にするものなんだ』と思っている方がいらっしゃるかもしれませんが、それは大間違いです。もちろん、それができたら素晴らしいですが、そんな営業担当者は見たことがありません。それに、属人的な営業だけでは、会社の成功や成長は長続きしないのです。

 それよりも、練り上げられたシナリオを基にしっかりと練習して、『ライオンキング』のように1万回以上も上演されるような営業を目指した方が確実です。同時に、経験豊富な先輩社員が、若手や部下に優れたノウハウやシナリオ、営業スキルを伝授していくことで、永久不滅に強い営業組織をつくることができるのです」