大人が体験格差を
埋めるためには

 こうした格差をなくすためにはどうしたらいいのか。

 少なくとも教養に関しては、お金をかけなくても学べる公立の図書館や地方自治体が主催する学びのイベントなどを利用し、少しでも子供が興味を持てるものに触れられる機会を作っていくことが必要でしょう。

 実はこれは、子供だけでなく大人も一緒です。教養溢れる親の元に生まれていれば、家族同士の会話や家庭生活の中で自然と教養が受け継がれていきますが、そうでなければ教養に触れる機会がないまま大人になってしまうこともある。

 若いうちは「うちの親は無教養だったから……」で済むかもしれませんが、50代になってそれではやはりまずい。

 子供のうちはやむを得ない状況であっても、社会に出ればあとは自分の力で教養格差、体験格差を埋めなければなりません。

 少なくとも「教養を身につけたい」と思っているなら、自分のできる範囲で努力をし始めなければなりません。

 社会が実学の限界を知り、教養を重んじるようになってきた一方で、大学でのキャリア教育重視はまだまだ続いています。

 特に私立大学では就職率が大学選びの条件になるからと、就職率の高さやキャリアセンターの充実度、就職のためのバックアップ体制を、大学での学びの環境整備以上に強くアピールしている大学もあります。

 また、50代ともなれば会社で部下を多く抱え、新卒採用を担当する立場を経験した人もいると思います。会社が大卒の採用時に「即戦力」を求めるからこそ、大学の側も学生を「即戦力」として育てることに躍起になっている面もあるでしょう。

 中には小中学校の段階から、キャリア教育を始めるべきだという声も根強くあります。

 しかし子供のうちから、自分が将来何になりたいのか、自分の特性を生かせるのはどのような職業なのかを把握できる人はほとんどいません。

 なぜキャリア教育が叫ばれるようになったかと言えば、ニート、つまり学校を出たあとも定職に就かずゲームばかりしているとか、家に引きこもって社会的な活動をしていないなどの若者が社会問題になって以降、文部科学省が慌てて持ち出したのがキャリア教育でした。

 しかしそうやって、就職のためだけに学ぶという姿勢は、本来の学問や教養とはかけ離れたものです。そして、近視眼的な実利のために仕入れた情報は、実はすぐに役に立たなくなるものでもあるのです。