八木が嵩を
助けてくれた理由

 明日をもしれないので嵩が、これまで戦友(バディシステム)として世話になったと礼を八木に言うと、井伏鱒二の詩集を読んでいる嵩に同じにおいを感じていたとわかる。井伏鱒二の詩がふたりを結びつけ、間接的に嵩を助けてくれたのだ。

 これまでの礼に、嵩は八木の似顔絵を手渡した。

 戦場は「弱いものから死んでいく」と言う八木。それはつまり、嵩のような弱いものは危険だということだ。でも嵩は「なんとしてでも生きて帰りたいのです」とこの時代、不謹慎なことを言う。勝つために命を捨てるのではなく、勝ったうえで生き残るのが最適解だと思うので、不謹慎ではない気がするのだが、当時の感覚って実際、どうなんだろう。すでに、戦況が思わしくなく、死んでも勝てという流れになっていたのだろうか。

 ここでは実際どうだったかというよりも、なぜ、生きたいと思うのか、なぜ、生きて帰りたいと考えてはいけないのか、というようなことを自分なりに考えることが大切なのかなと思う。どうも第54回から国語のテスト問題に向かっているような気持ちになっている。

 嵩は「なんのために生まれてきたか」その意味を知りたいから、死にたくない。どうしたらいいのか、八木に訊ねると――。

「弱いものが戦場で生き残るには卑怯者になることだ。仲間がやられても仇をとろうと思うな」

 八木の答えはシニカルであった。これをどう捉えたか、嵩の心情はここでは描かれない。ということは、このあとどこかでこれに関するエピソードが出てくるに違いない。

 戦争、戦争と重苦しさばかり漂うが、その空気を破った者がいる。

 岩男(濱尾ノリタカ)である。

 嵩たちの行き先は中国福建省。そこで嵩は幼馴染の岩男と再会する。康太(櫻井健人)、健太郎(高橋文哉)とどんだけ知り合いに再会するパターンを繰り返すのか。それはさておき、中国の市場で岩男が声をかけてくる。

 第一声はなれなれしかった岩男だが、嵩が伍長になっていると気付くとたちまち敬礼し、丁寧な言葉遣いになる。厳然たる階級差。八木のおかげで嵩は出世して、いじめから逃れることができたのだあと思う。卑怯者になる、というのは知恵を使えということかもしれない。