建設費が大幅に上昇し
収支計画に大きな狂い

 整備新幹線の着工は以下の5条件を全て満たす必要がある。

・安定的な財源見通しの確保
・収支採算性
・投資効果
・営業主体としてのJRの同意
・並行在来線の経営分離についての沿線自治体の同意

 地元の同意がなければ事業費の地方負担分の支出や、着工が許可されないため、5条件には明記されていないが、地元の同意は全ての前提にある。西九州新幹線の新鳥栖~武雄温泉間やリニア中央新幹線の静岡工区が進まないのも地元に反対論、慎重論があるからだ。

 では、国の「丁寧な説明」により、京都が納得すれば一気に進むのかというと、そう簡単な問題ではない。現状では条件を満たす展望が描けないからだ。

 与党PTが「小浜・京都ルート」が適切とする中間報告を取りまとめた2016年時点では、敦賀~新大阪間の工期15年、建設費約2.1兆円で投資効果(B/C)、収支採算性の条件を満たす見込みだった。

 ところが、国土交通省は2024年6月、物価・人件費の上昇や検討の深度化をふまえ、工期は25~28年、建設費は3.4兆円から最大5.2兆円に達する見込みとの最新の試算を発表したことで、議論は根底から覆った。

 B/Cは所要時間短縮などの「便益」を「事業費」で割るため、分母が2倍となったことで、B/Cは2016年の1.1から0.5前後へ半減。投資に対して半分しかメリットが得られない事業と判定されてしまったのである。

 これまでも着工時に1以上を見込んでいたB/Cが、着工後の事業費増加で1を割ったことはあったが、着工前に0.5では議論以前の問題だ。つまり、5条件を満たせないので新大阪延伸は着工できない。

 与党PT委員長の西田昌司参議院議員は「B/Cが1以下であろうが10あろうが、やるべき事業はやるべき」「なくしたらいい、そんな数字は意味ないから」と放言する。実際に国交省とB/Cの計算方法の変更に向けて調整中というが、1割2割の話ではない。計算方法を変えるだけで便益が2倍以上になるのなら、これまで見送られた事業も黙っていないだろう。