できないからと切り捨てず、得意なことに目を向けていく
年齢や障がいの有無にかかわらず、誰もができる持続可能でバリアフリーな農業の形を目指し、小林さんは「農福連携(*2)」に取り組んでいる。現在、障害者雇用促進法では、障がい者の雇用率が2.5%に定められており、従業員を40人以上雇用している一般企業は1人以上の障がい者を雇用する義務がある。AGRIKOの事業の一つ「障がい者雇用支援」では、企業と障がい者の双方にとって働きやすい環境づくりを通じて雇用の安定化を支援し、継続可能な勤務環境を提供しているが、実際、どのような形で農福連携を実践しているのだろうか。
*2 農福連携:障がい者等が農業分野で活躍することを通じ、自信や生きがいを持って社会参画を実現していく取り組み。
小林 障がい者雇用は、単に企業が雇用率をカバーするためのものではなく、障がいのある方がイキイキと活躍でき、また、企業にとってもメリットのある仕組みでなければなりません。現在は、障がい者雇用に課題を抱える企業と連携し、「AGRIKO FARM」を共同運営しています。企業の障がい者雇用支援の一環として、顧客向けのイベント開催、6次産業化の推進、ノベルティ制作など、PR活動全般をサポートしています。障がいのある方々と一緒に働いてみてわかったのは、皆さん、絵がうまかったり、字がきれいだったりと、作業以外でもさまざまな特技を持っています。AGRIKOは、その特技を埋もれさせず、きちんと活かしながら働ける場所にしたいと考えています。ファームのサポーターズとして、子育て経験のある方に働いていただいているのも、子どもの特性を見つけるのが上手で、(障がいのある方が)できないことがあっても、“どうしたらできるのか”“できるようにするには何が必要なのか”を考えてくれるからです。また、育児をして、家事をして――お母さんたちは、日々ものすごいマルチタスクを担って家庭を支えています。こうしたライフキャリアをとても尊敬しているし、実際、素晴らしい力を発揮して会社をサポートしてくれています。
会社では、苦手なことや、やり方がわからない仕事に出合うことも多くある。特に初めての業務が多い新入社員であれば尚更だろう。最初はうまくいかなくても仕方がないが、落ち込み、悩んでしまう人も少なくないのではないか。会社の経営者でもある小林さんは、こうした状況にどう向き合っているのだろうか。
小林 私が最初にお米づくりのお手伝いに行ったときも、農業は初めてだったので、何をしていいのかわかりませんでした。これが会社であれば、「できないなら、やらなくていいよ」と言われることもあると思います。でも、それは切り捨てられるようで、とてもつらいことではないでしょうか。私の場合は、農家の皆さんが私にできる仕事を見つけてくれたことで農業が大好きになり、経験や技術も上がっていきました。この経験から、その人の「苦手」なことではなく、「得意」なことに目を向け、伸ばしていくことの大切さを教わりました。
考えてみたら、私たち俳優の世界も、マネージャーさんがスケジュールを管理してくれて、撮影のときは、監督やカメラ、脚本家の方たちがチームになって、それぞれ得意なことを分業しています。私が俳優としてやっていけるのは、お芝居という“私が得意なこと”をきちんとできるよう、周囲の人が調整し、支えてくれているからです。そうはいっても、社会のなかでは、自分の得意なことだけをやれるわけではありません。会社もそうだと思います。それでも、少しでも「できること」に目を向けたほうが気持ちも前向きになり、力が出て生産性も上がります。精神的にも、ストレスの少ない働き方につながっていくのではないでしょうか。