
京都先端科学大学教授/一橋ビジネススクール客員教授の名和高司氏が、このたび『シン日本流経営』(ダイヤモンド社)を上梓した。日本企業が自社の強みを「再編集」し、22世紀まで必要とされる企業に「進化」する方法を説いた渾身の書である。本連載では、その内容を一部抜粋・編集してお届けする。名和教授がシン日本流経営の好例として評価するのが、大手スポーツメーカーのアシックスだ。海外メーカーに押されて2020年12月期には営業赤字に転落した同社だが、その後業績が急回復。3年連続で営業利益が過去最高を更新している。逆転劇の背景には、意外と知られていない創業哲学があった――。
アシックスの社名由来は
“足”ではなく…
心と身体の一体化を、創業時から一貫して、パーパスとして掲げてきた日本企業がある。アシックスだ。1949年、戦争の爪痕がまだ残る中で、鬼塚喜八郎がスポーツによる青少年の育成を通じて社会の発展に貢献することを目指して創業された。
最初のヒット商品となったのが、バスケットボールシューズだ。鬼塚氏がタコの吸盤を見て、グリップ性の強い靴を思いついたという。まさに自然から学ぶという日本的創造力が、いかんなく発揮されたエピソードである。
アシックス(ASICS)という社名は、ラテン語の「Anima Sana in Corpore Sano(健全な身体に健全な精神があれかし)」の頭文字をとったものだ。これを創業哲学とするアシックスは、「Sound Mind, Sound Body」をブランドスローガンに掲げている。
そこには、世界中の人々に、心身ともに健康で幸せな生活を実現してほしいという願いが込められている。身体が健全になることで心も豊かになる。そこにこそ、ナイキやアディダスなどの、スポーツとファッションを訴求する欧米発の世界ブランドとの決定的な違いがある。

京都先端科学大学 教授|一橋ビジネススクール 客員教授
名和高司 氏
東京大学法学部卒、ハーバード・ビジネス・スクール修士(ベーカー・スカラー授与)。三菱商事を経て、マッキンゼー・アンド・カンパニーにてディレクターとして約20年間、コンサルティングに従事。2010年より一橋ビジネススクール客員教授、2021年より京都先端科学大学教授。ファーストリテイリング、味の素、デンソー、SOMPOホールディングスなどの社外取締役、および朝日新聞社の社外監査役を歴任。企業および経営者のシニアアドバイザーも務める。 2025年2月に『シン日本流経営』(ダイヤモンド社)を上梓した。