「パワハラと言われるのが怖くて部下とはなるべく距離を置いている」「部下が何を考えているのかわからない」……職場において、こんな話を聴いたことはないだろうか。働き方改革やコンプライアンス重視の風潮が強まる中、マネジャーによる部下育成は困難を極めている。本間浩輔氏によるベストセラー『増補改訂版 ヤフーの1on1』では、部下との対話の場としての1on1について実践的に解説されている。本稿では、人的資源管理の専門家である永田正樹氏に上司と部下のコミュニケーションについて話を聞いた。

注目される「管理職コーチング」
今、多くの日本企業で、マネジャーによる部下育成能力の低下が問題視されています。それは、ビジネスにおいて環境変化のスピードが速く、業務が複雑化かつ高度化したことによって従来型のOJTが機能しなくなったからです。
そこで注目されているのが管理職コーチングです。
これは、仕事における部下のパフォーマンスを改善させることを目的として、マネジャーが1対1で部下にフィードバックやガイドを提供し、個人とチームに影響を与える活動のことです。
管理職コーチングの手法は多様です。
部下の目標達成に必要な問題解決や成長促進を目的として、軌道修正や動機付けを促す「フィードバック」や、知識や技術を知っている人から知らない人に教える「ティーチング」などは、一度は耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
「おれの真似をしろ!」というやり方も広く見られますが、これは手本を示し、観察の機会を与える「モデリング」と呼ばれる手法です。
幸福度の高い職場は
「1on1」をやっている
そのような中で、上司と部下が一対一で対話を行う「1on1ミーティング」は、やり方によっては非常にパワフルなマネジメントツールになります。「やり方によっては」というところがミソです。
私自身、「1on1=万能」などとは思っていません。
ただ、これまで多くのマネジャーや部下にインタビューしてきたなかで、定期的な1on1が、部下の「幸せ実感」を大きく左右することを実感しています。
パーソル総合研究所の調査によれば、上司との面談で「本音を話せている」と感じている人は全体の51.2%。会議の場面では52.1%。裏を返せば、日本の職場の約半分で、本音の対話は成立していないという現実があります。
なので、1on1を正しく設計すれば「この人には話せる」「ちょっと相談してみよう」という、部下にとっての「心理的な避難所」にもなり得ます。変化が目まぐるしく、不確実性の高い今の時代にこそ、そうした関係性が求められていると感じます。