さて、今回そのようなエリアであることを見越したかのように焼肉きんぐを運営する物語コーポレーションでは、焼肉きんぐを出店するのと同じビルに寿司・しゃぶしゃぶの「ゆず庵」も出店します。焼肉きんぐが全国350店舗であるのと同じく、ゆず庵も100店舗を超えて成長しています。

 では焼肉きんぐが、ないしはゆず庵がこうやって新宿に進出することで何が起きるのでしょうか?先ほど述べたように焼肉きんぐの都心価格では、きんぐコースが3580円と郊外店よりもせいぜい9%高い程度です。一方で出店するのは大ガードの交差点の一角の角地ですから、賃料は相当に高いはずです。

 結果として焼肉きんぐのお店としては記録的に繁盛することになると思いますが、利幅はとても薄いはず。この出店、戦略的にはどのような意味が生まれるのでしょうか?

 ひとつ言えることは店舗単位の収支とは別に、新宿のお店にはショールーム効果が見込めるということです。たとえば会社帰りにビジネスパーソンが4人で焼肉を食べに訪れるとします。焼肉きんぐはアプリで来店予約できますから、繁盛店だといってもそれほど待たずにお店に入れるはずです。

 4人のうち誰かひとりは焼肉きんぐの常連でしょう。だからお店を予約したわけですが、他の3人はそれで「こんな楽しいお店があるんだ」と気づくわけです。それで調べてみると自宅の近くにも当然のように焼肉きんぐのお店がある。それで週末、家族を連れてロードサイド店にでかけることになる。こうして都心のショールームに客を呼び込んで、それが郊外の店舗の新規客の獲得施策につながるのです。

 インバウンドのショールーム効果もあります。スシローは中国、香港、台湾を中心にアジアに展開していますし、くら寿司の場合はアメリカの子会社が上場しています。こういった飲食チェーンの場合はインバウンド客を入り口に現地の新規顧客を増やすことも可能です。

 実は焼肉きんぐを運営する物語コーポレーションは、外食業態全体で国内776店舗に対して海外はまだ39店舗にすぎません(2025年6月期第3四半期決算説明資料)。ただし、今後は他の外食チェーンと同様に海外での拡大を目指していくことになるでしょう。