試験盛土で大雨を再現し
モニタリング技術を確立
2つの最大の違いは雨への対策だ。鉄筋コンクリートの高架橋はいくら雨が降っても排水すれば問題ないが、盛土は線路上のバラスト(砂利)から水が地中に染み込み、最悪の場合、盛土が崩壊する。
のり面(盛土の斜面)へのコンクリート敷設などの「遮水」、水抜きパイプなどの「排水」に加え、1時間あたりの降雨量または過去24時間の連続降雨量が規制値を超えた場合に徐行や運転を見合わせることで安全を確保していた。
しかし、2024年の台風10号は日本近海に長期間停滞し、8月26日から9月1日にかけて各地で長期間の激しい雨が続いた。静岡県では平年の8月降水量の2倍以上となり、東海道新幹線は30日から3日間、三島~名古屋間の計画運休を余儀なくされた。
夏休みの帰省、行楽輸送は大混乱し、乗客からは恨み言があがったが、当然ながらJR東海としても止めたくて止めたわけではない。同社は当時、「東海道新幹線はほかの新幹線と比べて盛土の区間が多いため、雨に対して慎重に運行管理を行いたい。技術的なことも分析しながら必要な速度規制を行い、場合によっては計画運休を実施していく」と説明していた。
このように豪雨災害の激甚化が進む中、JR東海は2022年から試験盛土に土壌水分計を設置。最大1時間当たり200ミリの雨量を再現できる散水装置を用いた試験を行い、モニタリング技術を確立した。2024年には営業線に土壌水分計と地下水位観測孔を設置し、降雨データと盛土内水分量を把握した。
あわせて進めたのが、土の強度、浸透性などの土質データの取得だ。総合技術本部技術開発部(以下同)で豪雨対策を担当する新美利典氏によると、同じ土でも砂は水を通しやすいが、粘土はそうではないように、土質によって水の影響は異なる。また、開業から60年が経過し、盛土内部が経年変化を起こしている可能性もある。
こうして区間ごとに盛土の水分浸透状況と耐降雨性を評価し、降雨が土壌中に水分量としてどれだけ溜まるかを数値化した「土壌雨量」を新たな規制値として採用し、今年6月1日から運用を開始した。旧規制値の連続降雨量が全区間一律だったのに対し、土壌雨量は区間ごとに異なる数値を参照する。