【事例3】スマートポールプロジェクト

 平井則輔氏(GovTech東京デジタル事業本部長)が取り組むスマートポールプロジェクトは、システム開発だけでなく法整備にも踏み込んだ。

 スマートポールとは、5G基地局、Wi-Fi、デジタルサイネージ、センサーなどを一体化した多機能ポールだ。5G自動走行ロボットによる配送や街の混雑状況の可視化、地域情報の配信などが可能になる。しかし、そもそも道路への設置が法的に認められていなかった。

5G搭載のスマートポール5G搭載のスマートポール(東京都デジタルサービス局
GovTech東京 デジタル事業本部長 平井則輔氏 Photo by M.SGovTech東京 デジタル事業本部長 平井則輔氏 Photo by M.S.

 平井氏は民間企業と連携し、9種類のプロトタイプを開発・検証した。デザインの統一や機能表示も工夫し、最終的に「スマートポール」を東京都建設局の道路管理運用規定に明記することに成功。2022年までに29基を設置し、効果検証を行った。

「行政内部の複雑な仕組みをつなげるのは、中の人じゃないとできない。だから、行政こそ内製化が必要だ」(平井氏)

 高野克己氏(東京都デジタルサービス局長)は、職員の意識も変わってきたと語る。

「従来は調達一辺倒で、内製という概念が全くなかった。しかし実際には、リリース後に使い勝手の問題や新たな要求が次々と出てくる。特に都民と直接接するサービスでは、継続的な改善が重要という認識が広がりつつある」(高野氏)

東京都デジタルサービス局長 高野克己氏 Photo by M.S.東京都デジタルサービス局長 高野克己氏 Photo by M.S.

東京が示す行政DXの可能性

 行政の内製化は、単に役所の中の嵐ではない。だからこそ重要なのは、内製化を目的化せず、住民の幸せという本来の目的を見失わないことだ。及川氏の言葉通り、「作っているのは価値」であり、その価値をどう最大化するか、常に問い続けたい。

「世界の都市ランキングで東京はニューヨーク、ロンドン、パリと並んでトップクラス。しかしデジタルランキングでは64位という項目もある。魅力は世界最高水準なのに、デジタルだけが弱い。行政職員も誰も今のままでいいとは思っていない」(平井氏)

 GovTech東京は2023年の設立当初から、都内62区市町村だけでなく全国1700以上の自治体への貢献を掲げている。首都だからできることがある。東京の実践がモデルケースとなり、ノウハウや成功事例の横展開を通じて、日本の行政サービス全体の底上げが期待される。