子どもに厳しく当たるほど
親の攻撃はエスカレートする

 自己憎悪は、しばしば他者に向かって表現される。

 例えば、ある人が他者を憎むことで、その人の内面にある自分への憎しみを隠そうとする場合がある。「自分は悪くない、あの人が悪い」と思い込むことで、自己嫌悪から目を背けようとするのだ。

 この心理は、しばしば無意識のうちに働く。

 例えば、息子のことを「駄目な息子だ」と繰り返し言う母親がいる。その母親は息子を責めることで、自分の心の中で抱えている自己蔑視を外に出しているのである。

 息子を責めることで、心の葛藤から逃げようとしている。そのため、母親の依存は深まり、息子をさらに攻撃的に扱うことになる。

 子どもを裁き、子どもにプレッシャーをかけることで親の心が癒やされる。子どもにプレッシャーをかけることで、親は自分の心の葛藤を解決しているのである。親の方は心の傷は癒やされる。難しく言えば、親の自己蔑視の外化である。子どもに向かって投影の非難をする親は、現実に直面できない。自分自身の心の葛藤に直面できない(注1)。

「アンタはバカじゃないわよ」と母親は言う。「やればできるのよ」と言う。これは子どもにはものすごいプレッシャーである。その理由は、母親が「アンタはバカじゃないわよ」と言いながら、無意識に息子をバカだと思っているからである。

 母親からバカと思われた子どもは、自分をバカと思ってしまう。自分はバカという自己イメージを持った人が、頑張るのは辛い。同じように努力していても、自己イメージで「自分は賢い」と思っている人が努力している方が楽である。

 自分はバカだと無意識に思っている子どもが、母親から頑張るようにプレッシャーをかけられ、「私はこうならなければいけない」と思い込む。その思い込みが子どもを苦しめる。

(注1)Karen Horney, The Neurotic Personality of Our Time, W. W. Norton & Company, 1964,p.158.