2つ目は「海外資産の未申告」である。海外に保有している不動産や金融資産を申告せずに隠していると、悪質とみなされるおそれがある。海外資産は申告漏れが発覚しにくいと考えて意図的に申告しないケースも見られており、国税庁は今後、これまで以上に海外資産の把握に力を入れると考えられている。

 3つ目は「死亡直前の預金引き出し」である。被相続人が亡くなる前は医療・介護関係の費用のために預金から引き出すことはよくあることだ。葬祭費用を用意するケースも多い。このような引き出しは悪質ではなく、相続税申告を適正に行えば問題ない。しかし、相続税の課税を減らすことを目的に引き出していると、税務署は悪質と見なす可能性がある。

 税務署は納税者の申告や納税の状況などを管理しており、現金の隠匿であっても見抜くことは多い。非常に高い調査能力を有しているため、意図的に財産を隠す・引き出すことは大変危険だ。

相続税脱税の末路は「逮捕」
懲役1年6カ月・執行猶予3年の判決も

 相続税の脱税が発覚した場合「単なる税金の追徴」だけでは済むとは限らない。悪質なケースと判断されれば刑事罰の対象となり、最終的には「逮捕」に至る可能性もある。実際に、近年でも以下のような逮捕・告発事例が報じられている。

 まずは2017年8月、名古屋地裁の判決を紹介する。被相続人の長女が相続財産の一部を隠匿し、過少申告を行うことで相続税を免れたことが発覚し、逮捕された。名古屋地裁は被告人(長女)に対して懲役1年6カ月、執行猶予3年、罰金2500万円の判決を言い渡している。意図的な財産隠しが悪質と判断された事例だ。

 2023年12月、仙台国税局が刑事告発した事件もある。75歳の女性会社役員が、亡くなった夫からの相続財産について虚偽の申告を行い、約1億2000万円の相続税を脱税した疑いで、仙台国税局が刑事告発した。この事件は福島地裁で公判が行われ、懲役1年6カ月、罰金3000万円が求刑されている。