現場に「やってみたい」、
と思ってもらえる環境づくり
――お話をうかがっていると、もちろん管理本部のみなさんの働きかけもあり、いろいろな仕掛けもある、ということですが、なぜみなさん、そんなに前向きになったのでしょうか?
中谷:1、2年で成果を求めないようにしているんです。元々始めた当初から、これは風土改革なので、はっきりとしたレバレッジポイントは見えないんだと思っていました。
特に1on1に関してはスタート段階から強制的にはやらせない、と決めていました。強制的にやらされる1on1って、いかに悲惨な場か想像できちゃいますよね。現場に委ねるプログラムなので、一切強制はしないし、やってくださいっていうお願いベースです。10年かかるだろう、ということをイメージしていました。
どこの職場にも「人の話を聴けない人」っていますよね、きっと。そういう人に「1on1をやってね」と言って、簡単にできるわけがないじゃないですか。ペナルティはご法度、とすると、あとは環境整備しかないわけですよね。
――1on1の導入について、リーダーたちの反応はどういうものだったのでしょうか?
中谷:「時間がない」という意見はあります。でも、それは別に聞き流していいんじゃないかと思うんです。乱暴ですけど。だって、自分がやりたいことだったら、会議とかやるべきことをすっ飛ばして、優先しちゃいますよね。
そこを見据えた上で、あとはいかに楽しく取り組んでもらうかというところが、重要かなと思います。さらに、全員がそれを必要だと思ってもらうってことが必要だと感じています。
お互いが声を掛け合う風土へ
――その後の職場の変化、例えば「やってよかった」とか、「こういうふうに変わった」みたいな話はありますか。
鈴木:自分の話を聴いてもらえることがうれしい、という声はよく聞きますね。忙しい上司が、自分のために時間を取ってくれる、その中でメンバーが「話したいことを話していいよ」という時間ではあるので、そこで振り返りができたりとか、自分の今の気持ちをわかってもらえたとか、そういうかたちで価値を感じているんじゃないかなと思います。
リーダー自身も、メンバーの話をしっかり聴く時間がなかなか取れない状況にあると思うので、普段の部下の様子をキャッチができるようになったりとか、「そんなこと考えてたんだ!」ということを把握できたりしていると聞いています。
例えば半年に1回の人事考課の面談だとなかなか拾いきれないような、メンバーの変化や気持ちを話してもらうというのは、お互いにとっていい場になっているのではないかなと思いますね。
小坂:一対一の時間をとることで、今はお互いに興味・関心を持てるような関係性を築けている、と思います。私は実際に自部署のメンバーのみなさんと時間を作ってお話するのに加えて、違うグループのメンバーの方との1on1を月1回ぐらい実施しています。部署をまたぐと、普段の接点では見えない悩みや考えに触れることができ、新たな気づきにつながっています。
中谷:サッカーにしても野球にしてもラグビーにしても、優れたチームはフィールドでお互いが活発に声をかけ合ってますよね。リーダーだけが声を上げて勝ってるチームなんてほとんどなくて、お互いが声をかけ合って試合は進んでいくと思うんですよ。
職場も本当はそうなのに、なぜかリーダーだけ声を発してたっていうのが、これまでの当社だったんです。
今はお互いが声をかけ合って、「それは違う」「こういうことやってみたい」と率直に言えるようになってきました。そういった意味で、職場が少しずつ変わってきていると思います。
(本記事は、『増補改訂版 ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法』に関連した書下ろし記事です)