この影響を避ける方法はふたつあって、ひとつは年収を130万円以内に抑えることで配偶者の健康保険に入ること、もうひとつが週の労働時間を20時間未満に抑えることです。
そこで新しいルールの下で、高い税金や社会保険料を負担しないように働こうと思った場合、労働者が採れる具体的な作戦が次のふたつということになります。
2. 時給が高いパートを選ぶということ
たとえば週18時間を時給1600円のチェーンストアで働くようなことができれば、税金も社会保険料も回避できます。つまり103万円の壁と106万円の壁を、政治家が妥協しながら動かしたことで、時給の高いパートのほうが従業員を採用しやすくなったのです。零細企業にとっては不都合な力学がこの先、パートの採用に働くようになるのです。
変化要因3
団塊ジュニアの引退
さて、賃上げの分野での話題と言うと、実は正社員の新卒給料が爆上がりしていることも話題です。これも要因1と同じメカニズムで、大企業は新入社員の給料を高く設定しなければ売り手市場の就職戦線で人材を確保できない状況に追い込まれています。
こういった需給の変化のあおりを受けているのが就職氷河期世代です。新卒の給料を上げるためにはあまり成長できていない大企業の場合は財源が必要で、わかりやすい財源としては中高年の昇給率を削るといったことが起きています。
とはいえ昇給率を削ったとしても中高年社員の人件費は合計すれば割高で、そういった企業では経営の負担になっていることは事実です。それが急激に緩和されるのが60代になったときの再雇用です。実際、私の世代がいまそのタイミングに来ていて、多くの仲間が「同じ仕事を半分以下の給料でこなす」という新しい働き方に移行しています。
さきほど50代の人口を合計すると1836万人だと言いました。これからの10年間で、この人口がつぎつぎと嘱託への切り替えへと移行します。この世代の人口は若者世代の1.5倍もありますから、そこで削った人件費は社会全体で見れば大きな財源となります。
ではその財源はどこに使うのが一番いいのか?若いアルバイトパートの時給競争に勝つための原資として使うのが、成長分野にいる大手チェーンストアにとっては一番良い投資先になるのではないでしょうか。