時給を上げられない中小零細企業が多い中で、残酷な話ではあるのですが、賃金を上げれば上げるほど儲かる会社が存在しています。そのような会社中心にパート時給が上がり始めているのです。
【変化要因2】
「年収の壁」撤廃
前回の衆議院議員選挙で政権が少数与党となったことで、野党との協議が行われるようになり、年収のふたつの壁が大きく動きました。
ひとつは103万円の所得税非課税の壁で、国民民主党が主張していた水準への変更は実現できませんでしたが、160万円が新しい壁になることが決まりました。雇用主にとっては良い変化です。それまで扶養控除を受けるために最低賃金の1000円近辺で年間1000時間しか働いてくれなかったパート従業員が、これからは1.6倍の時間、シフトを入れてくれるようになるからです。
ただもうひとつ国会で可決されてしまったのが106万円の壁の撤廃で、これは実はパートで働く人にとっては打撃が大きい制度変更だといわれています。
というのも3年以内に実施される106万円の壁撤廃で、多くのパート従業員がこれまで入らなくてもよかった厚生年金に入らなければならなくなるのです。年金は遠い将来に戻ってくるとはいえ、当面の給料からそれなりの金額が天引きされます。最近はこの社会保険料の値上げが庶民の給料の手取りを下げている大きな要因のひとつになっています。手取りが少ないパート従業員にとっても打撃です。
この影響を避ける方法はふたつあって、ひとつは年収を130万円以内に抑えることで配偶者の健康保険に入ること、もうひとつが週の労働時間を20時間未満に抑えることです。
そこで新しいルールの下で、高い税金や社会保険料を負担しないように働こうと思った場合、労働者は次のふたつのことを強く意識することになります。
1. 週19時間、年間約950時間しか働かないこと
2. 時給が高いパートを選ぶということ
たとえば週18時間を時給1600円のチェーンストアで働くようなことができれば、税金も社会保険料も回避できます。つまり103万円の壁と106万円の壁を、政治家が妥協しながら動かしたことで、時給の高いパートのほうが従業員を採用しやすくなったのです。零細企業にとっては不都合な力学がこの先、パートの採用に働くようになるのです。