中小企業による
中小企業のためのシステム

 導入から4年後の21年に取ったデータでは、社員1人当たりの売上高が8.6%増加した一方で、労働時間は15.9%減少。不良率は97%も減少した。長時間残業をする従業員はいなくなった。30年前、3億円を切っていた売上高はおよそ10億円に上がった。

 利益が上がった分は従業員に還元している。「今は年3回賞与を出しています。業績が良ければ4回目も出したい」と前田社長。

 採用にも大きなプラス効果をもたらした。若手社員が増え、20〜30代の従業員が半数を超えた。若手が増えればベテランの熟練技術をいかに継承するかが課題となりそうだが、さほどその必要は感じないという。

「今の若手はすごい。デジタルネーティブ世代ですから、機械やソフトウエアの使い方を教えなくても、触っているうちに新しいデバイスを自然に使いこなして求められる品質の仕事ができてしまう。今年入社した女性社員は3カ月ほどでロボットとTEDを使って加工できるようになり、入社5年目ぐらいの従業員がやる仕事をしています」

同じ悩みを抱える企業と共同出資してシステムを開発。資金も人材も足りない中小企業が選んだ“身の丈”DX入社1年目の社員でもTEDとロボットを活用して加工を行うことができる

 TEDは今、PROFECTにより一般企業向けに外販されている。導入費用は1200万円と、大手メーカーのシステムの約3分の1。端末の台数は50台程度が想定されている。

 すでに30社以上に導入されており、日本国内だけでなく、ベトナムにもユーザー企業がいる。システムを導入して終わりではなく、現場がきちんと稼働するまで導入支援するというのがPROFECTのスタイルだ。

「中小企業が作り出した、中小企業のための生産管理ソフトを、日本中に広め、日本全体の生産性を上げたい」と前田社長は全国を飛び回っている。

 TEDの一般企業向けの販売は順調に進んでいる。その大きな理由の一つは、8社による共同開発ということにある。特定の1社に寄せないフラットな仕様を目指したため、汎用性が高い製品が出来上がった。また、8社それぞれ業態が異なるため、互いの知見を生かすことができた。

 前田社長は「自社開発では自社のやり方を『正』として開発が進むが、他社との共同開発のため、意見を交わす中で自社が『正』ではなかったことに気が付いた。それが良い製品作りに結実した」と語る。

 広島メタルワークの挑戦は、中小製造業における現実的で持続可能なDXのモデルケースといえる。