「お前みたいなが通用せんぞ」東海林(津田健次郎)の“偽悪的愛”が炸裂【あんぱん第81回】

東京への憧れを口にする嵩
その本心は……?

 東海林が部屋を出ていき、ふたりきりになったのぶと嵩。

「おれもいつかは…」(東京に行きたい)と言う嵩。

 のぶは嵩も「東京に行きたいが?」と問うのだが、昔、あんなに嵩が東京を愛していたことをのぶは忘れてしまっているようだ。いつの間にか、のぶのほうが東京に強い憧れを持っているようになっている。

「ほいたら先に行って待ちゆうきね」「ぼやぼやしよったらおじいちゃんになってしまうで」と呑気に嵩を煽るのぶ。

 道理に合わないこの流れを筆者なりに考えてみた。

 戦争の衝撃によって世界線が変わって、いまはのぶが子どものときから東京を夢見て大志を抱いてきた世界線なのだ、たぶん。これも冗談。嵩は、のぶと一緒にいたいだけで、場所はどこでもいいのだろう。

 さて。のぶが辞めた穴は琴子(鳴海唯)が埋めることになった。猫をかぶって生きるより取材して記事を書くことに興味を持ったらしい。確かに、琴子は才気煥発な感じがあるし、猫もかぶれるからしたたかに記者として活躍しそうである。

「これからは私らあの時代やき」と琴子は威勢がいい。

 琴子はのぶと飲んだあと、編集部に戻る。ほんとはのぶの送別会で、嵩も呼んでいたのに、来なかったことを責めに来たのだ。嵩は仕事が終わらないと言い訳する。傍らに岩清水(倉悠貴)もいて。なんで引っ張っていかないのかと思うが、まあいい。

 琴子も岩清水も嵩にこのままでいいのか問う。高知新報、いや高知中が、嵩ののぶに対する気持ちを知っている。気づいていないのはのぶだけだと岩清水は言う。高知新報の表紙も4コマ漫画も嵩の私情で埋め尽くされていることに誰もが気づいていた。

 嵩はついに立ち上がる。

 その頃、のぶの家には、羽多子(江口のりこ)と蘭子(河合優実)が来ていた。明日東京に発つのぶを見送るためだ。

 蘭子がのぶの代わりにこの家にメイコ(原菜乃華)と住むことになった。え、この家、若松家のものだよね。のぶの留守番という意味ならなんとか納得できるが。

 メイコはこの家にいて働くよりものぶに着いていきたい。他人を頼ってばかりいることを反省して自立しようとしていたはずが、相変わらずちゃっかりしている。

 のぶが東京に行くのが夢だったとしきりに焚きつけるのも自分が行きたいからではないかと思えてくる。このドラマにはひたすら純真で道徳的な善人はひとりも存在しない。

 羽多子はくら(浅田美代子)から結太郎(加瀬亮)の帽子を預かってきてのぶに託す。帽子は大志の象徴だろう。帽子は、ずいぶん長いこと大切に飾られてきた。

 羽多子は母として、このままのぶがひとりで生きていくのではなく、弱いところやほころびを理解してくれる人に出会えたらいいと願う。