
豪を失った蘭子
渾身の説得が染みる
蘭子は、豪(細田佳央太)を失った身から、遠慮されても千尋は嬉しくないだろうと言う。
「どんなに思うても もう気持ちをつたえることはできんがです。戦争で死んだ人の思いをうちらあは受け継いでいかんといかんがやないですか。人を好きになる気持ちとか。そんなに好きな人に出会えたこととか なかったことにしてほしうないがです。なかったことらあにせんといてください」
蘭子の思いが染みる。
嵩は誰もいない編集部で、引き出しを開ける。そこには紙と赤いバッグが入っている。よくよく見ると、ふたの部分にかすかにぽつりぽつりと傷がついている。小道具さんの配慮だろうか。ああ、やっぱり、何度も何度もいじってきたから新品の手つかずのピッカピカではもうないのだと筆者は落胆した。
いやでも、バッグむき出し問題は気にしてはいけない。赤いバッグはすでに象徴と化している。
紙とバッグの入った引き出し。嵩の大事なものだけが入っている引き出し。この引き出しは嵩の心なのだ。
朝、琴子(鳴海唯)が出社してくると、机の上には新作の絵があった。ますます似ているのぶ。表紙絵として気を遣わず、のぶの顔そのものを描いたものだろう。おめめが大きくかわいいのぶである。
再び闇市。のぶが浮浪児たちにアンデルセンを読み聞かせしようとしているところへ、嵩がやって来る。
八木が気を利かせて子どもたちを連れて去っていった。八木が読み聞かせるのはまた「どん底」みたいな小難しい本なのだろうきっと。
のぶはまた顔を強張らせるが、嵩は「今日は喧嘩はやめよう」と冷静になだめる。
そしてついにバッグを渡す。
ここの画がすばらしい。