「ポジティブはネガティブから生まれる」ミセス大森元貴の創作哲学がグサッと刺さる第93回より

学ランのシーンとピアノを弾くシーンから始まった
『あんぱん』撮影

 大森さんが今回のオファーを受けたとき「ライブツアーで、演劇を交えた部分に感じていただけるものがあったのだと思うと本当に光栄でした。ただ、僕に朝ドラが務まるだろうかと、買いかぶっているんじゃないかと思って不安も感じました」と振り返る。それでも「同時にすごくワクワク」して、すぐに引き受けた。

 撮影初日はピアノを弾くシーンも。メイコ(原菜乃華)がのど自慢の予選会に出るための練習にいせが付き合ってあげるシーンで『東京ブギウギ』を演奏した。

「朝ドラ『ブキウギ』はオンエアのときに見ていて好きだったので、そこで流れた楽曲を弾けるのが嬉しかったです。

 でも、僕、譜面を読めないんですよ(笑)。本番、1週間前くらいから練習をはじめ、ピアノ指導の先生が演奏した動画をいただいて、それを見たり、うちのバンドのキーボードの藤澤涼架にアドバイスをもらったり。CM撮影やレコーディングの現場や、ライブの楽屋にピアノを持ち込んで、20秒でも時間があったら鍵盤に触るようにしたりしていました」

 かなりの特急仕上げを要するが、大森さんは前向きに考えた。

「諸説あるようですが、資料を読むと、いずみさんも独学でピアノを習得したらしくて。子どもの頃から英才教育を受けてきたわけではなく、自分なりのフォームで弾いていらしたのかなと都合のいいように解釈しました(笑)。本番は気合で乗り越えましたが、ものすごくドキドキして。でも楽しかったです」

 いせたくやは登場時、18歳だ。

「衣装が学ランで、それに助けられたところはあります。フレッシュに演じられたらいいなと思いました。

 自分がデビューをしたのが18歳でしたから、当時の自分と照らし合わせ、いせたくやが何にフラストレーションを感じて何に希望を抱いて何に共鳴しているのか。自分ごとのように考えてキャラクターを作りました」

 嵩の下の世代として工夫してみたところがあった。

「嵩たちよりも下の世代で、戦争が終わって次のものづくりをする一つの光のような存在なんでしょうね。嵩にも影響を与えますし、たくや自身もいろいろ時代に対して思うところもあって、音楽と芝居を通して、本当に日本を明るくしたいと思っているとも感じました。

 たくやは、子どものときから芝居が好きだったのでしょうから、立ち振る舞いのテンポ感を、これまでの『あんぱん』の登場人物とは変えて、やや演劇的にしてみました。(北村)拓海くんからはそれが非常に演じやすいと言ってもらえて。僕が選んだ方向性で大丈夫そうだと安心しました。匠海くんからの言葉が一つの指針になっています」