リビングのキッチンカウンターには娘さんがプレゼントしてくれた、ドングリが入ったガラス瓶がいつも飾られていた。2億円のマンションで暮らす人が、ドングリを大事そうに飾っている……。

 生きていく上でお金は大切だ。だけど家族、時間、健康、友達……。お金じゃ買えない、お金よりもずっと大切な「何か」について、このガラス瓶を見る度に考えていたはずなのに……。

 ごめんなさいも、ありがとうも、言えなかった。もっと力になりたかった。力になれたのに、やらなかった。あんなによくしてもらったのに、何も恩を返せなかった。当たり前だが、死んだら何もできない。何も伝えられない。たくさん聞いてほしい話があった。生きていてほしかった。

億ション姉さんが放った
忘れられない言葉

 会社と裁判をしている事実については、億ション姉さんに包み隠さず話していた。生前、億ション姉さんはこのように言ってくれた。

女性「もし会社を解雇されてなければ、佐藤さんってウーバーやってないですよね?」
佐藤「それはそうですね」
女性「クビになってなかったら私たちは出会わなかった、ってことですよね?」
佐藤「たしかに、そうなりますね」
女性「なら私はその会社に『ありがとう』って伝えたいです。会社との裁判が終わっても、佐藤さんにはウーバーを続けてほしいなぁ。そのほうが絶対、社会のためになりますよ」

 今日も僕は四角いバッグを背負い、自転車に乗って、神戸と芦屋の街を走っている。

【前編】「LINE交換しませんか?」“億ション”に住む女性客が“借金漬け”のウーバー配達員に友達申請→価値観がズレまくる「異世界交流」が…え、うそ?まさか最後に泣かされるとは