女性「帰ってって言ったのに、なんで戻ってきたの?」
佐藤「いや、何か手伝えることがあれば、手伝いたいなって」
女性「ハッキリ言って迷惑です。早く帰って!」

 このやり取りが、自分の中ですごくショックだった。迷惑だったのかもしれないけど、その言い方はさすがに酷いと思ったのだ。

 結局、このやり取りをキッカケにLINEでの喧嘩に発展。最終的に僕の方から「もう会いたくないです」とメッセージを送った。

 このとき、「最後だから言うけど、私の病気は末期ガンだった」という告白をされた。それまでは「心配させたくないから病気のことは言いたくない。持病だし、治る病気だから大丈夫」と言われていた。

病気の友達よりも
自分の生活を優先した

 出会ったときから何となく、予感はあった。だけど本当の話かどうか分からなかった。億ション姉さんは、いつも美味しそうにご飯を食べていた。お酒だって普通に飲んでいた。

 ちょうどこの頃、ブラック企業との裁判が大詰めを迎えていた。僕がウーバーの仕事を始めたキッカケはこれだった。

 勤めていた運送会社ではサービス残業が恒常化しており、これに異議を申し立てたところ突如「クビ」を宣告された。不当解雇を求めて提訴した僕は、この裁判期間中の生活費を稼ぐ必要があった。

 今自分の人生で最も優先すべきことは何なのかを考えた。たくさんの言い訳を並べながら、僕は彼女のことを一度忘れて、ウーバー配達員としての日常に埋もれることを選んだ。

 2年間にも及んだ裁判がようやく終わり、心の冷静さを取り戻した僕は「やっぱり謝りたい」と考えるようになった。けれどLINEを送っても、一向に既読にならない。だから迷惑であることは分かっていたが、勇気を出して、2カ月ぶりに億ションを訪問した。

 恐る恐る部屋番号を押したが、返事はなかった。諦めて帰ろうと思ったそのとき、駐輪場でマンションの共通の知り合い(年配の男性)と鉢合わせた。