ベンツでドライブ、神戸牛ランチ、
モロゾフのプリン…不思議な異世界交流

 週6ペースで、僕は億ションを訪問した。散歩前と散歩後はいつも玄関前(大理石でできている)でおしゃべりを楽しんだ。足をしびれさせながら、2時間くらい話し込んだこともある。

 たくさんの思い出話がある……。ベンツの助手席に乗せてもらい、三宮で神戸牛ランチを御馳走してもらった。

 初めてリビングに入れてもらった日、モロゾフのプリンを一緒に食べた。お昼に海鮮丼を作ってくれた。あまり使ってないからという理由で、コーヒーマシンを僕にプレゼント、ウーバーのバッグに入れて持ち帰ったときは二人で笑った。誕生日やクリスマスの日はホールケーキを用意してくれた。

 2日間、億ション姉さんの「既読」が付かない日があった。初めての経験に、どうしたのかなと心配に思っていると、22時過ぎ頃にメッセージが届いた。

女性「身体がヤバくて死んでました。散歩、今からお願いできませんか」

 数日後も同じような連絡があったので、僕は夜の散歩に汗を流した。

 玄関まで移動して、鍵を開け閉めする動作が辛いという理由から、合鍵を預かることになった。ゴミ出しや郵便物の運搬も手伝うようになった。LINEの誤字脱字が目立つようになった。本人曰く、モルヒネより強い薬を飲んでいるので、たまに意識が飛ぶそうだ。

億ション姉さんと喧嘩別れ…
別れ際に明かされた真実

 あるとき、億ション姉さんが「全身が痛くてたまらない」と大粒の涙を流し始めた。

 彼女の右足を見ると、誇張ではなく左足の倍近く、パンパンに腫れあがっている。吐き気も催しているようで、会話の途中で口を押えた彼女はトイレに駆け込み、嘔吐する音が聞こえてきた。

 億ション姉さんは「こんな姿は見られたくないから、今日はもう帰って」と僕に伝えた。逃げるように、その場を離れた。

 マンションの外に出ると、一台のタクシーが駐車していた。そういえば今日は大阪の病院に行く日だって言ってたっけ……。力になりたいと思った。例えばタクシーまで荷物を持ったり、車椅子を押すこともできるはずだ。合鍵を使って部屋に戻った。