ベンツでドライブ、神戸牛ランチ、
モロゾフのプリン…不思議な異世界交流

 週6ペースで、僕は億ションを訪問した。散歩前と散歩後はいつも玄関前(大理石でできている)でおしゃべりを楽しんだ。足をしびれさせながら、2時間くらい話し込んだこともある。

 たくさんの思い出話がある……。ベンツの助手席に乗せてもらい、三宮で神戸牛ランチを御馳走してもらった。

 初めてリビングに入れてもらった日、モロゾフのプリンを一緒に食べた。お昼に海鮮丼を作ってくれた。机に置かれたフォークの値段が、なんと一本6000円もすることが判明。思わず「このフォーク、自分の日給と同じなんですね」と伝えたところ、億ション姉さんは「あの、なんかすみません」と謝っていた(ちなみにサラダが盛り付けられていた食器は3万円だった)。

「あんまり使ってないから」という理由で、ネスプレッソのコーヒーマシンを譲り受け、ウーバーのバッグに入れて持ち帰ったときは二人で笑った。

 ネスプレッソはコーヒー1杯を抽出するのに120円のカプセルを1つ消費する。自分には贅沢すぎると思い、冷蔵庫に入れて2日にわけて飲んでいると報告を入れたとき、億ション姉さんは「香りや風味が落ちるじゃないですか!?」と絶句していた。

 2日間、億ション姉さんの「既読」が付かない日があった。初めての経験に、どうしたのかなと心配に思っていると、22時過ぎ頃にメッセージが届いた。

女性「身体がヤバくて死んでました。散歩、今からお願いできませんか」

 数日後も同じような連絡があったので、僕は夜の散歩に汗を流した。

 玄関まで移動して、鍵を開け閉めする動作が辛いという理由から、合鍵を預かることになった。ゴミ出しや郵便物の運搬も手伝うようになった。LINEの誤字脱字が目立つようになった。本人曰く、モルヒネより強い薬を飲んでいるので、たまに意識が飛ぶそうだ。