過去にこの男性は、僕が億ション姉さんから宅配ボックスの受け取り方法を教わってるとき、「何かお困りごとですか?」と声を掛けてくれたことがある。以降、挨拶や雑談を交わすようになった。

 僕は勇気を出して、これまでの経緯について簡潔に話した。そしてその男性に「知ってることがあれば何でもいいので教えてください」と頭を下げた。

 その男性は、近くに誰もいないことを確認した後、小声で教えてくれた。

 億ション姉さんは、1カ月ほど前に亡くなったそうだ。

旦那の不倫で離婚
いつの日か娘と暮らすのが夢

 億ション姉さんには旦那さんがいたが、別居中だった。不倫が原因と聞いていた。自分が病気に苦しんでいるのに、夫が闘病期間中に何十万円も他の女性に貢いでいたことが発覚。鍵を取り上げ、家から旦那さんを追い出したと言っていた。

 億ション姉さんには3歳の娘さんがいた。体調不良のため子育ては難しく、両親とは不仲のため、断腸の想いで旦那のところに預けている。病気が治ったら離婚の手続きをして、娘と一緒に暮らすのが私の夢だと話していた。

 リビングのキッチンカウンターには娘さんがプレゼントしてくれた、ドングリが入ったガラス瓶がいつも飾られていた。2億円のマンションで暮らす人が、ドングリを大事そうに飾っている……。

 生きていく上でお金は大切だ。だけど家族、時間、健康、友達……。お金じゃ買えない、お金よりもずっと大切な「何か」について、このガラス瓶を見る度に考えていたはずなのに……。

 ごめんなさいも、ありがとうも、言えなかった。もっと力になりたかった。力になれたのに、やらなかった。あんなによくしてもらったのに、何も恩を返せなかった。当たり前だが、死んだら何もできない。何も伝えられない。たくさん聞いてほしい話があった。生きていてほしかった。

億ション姉さんが放った
忘れられない言葉

 会社と裁判をしている事実については、億ション姉さんに包み隠さず話していた。生前、億ション姉さんはこのように言ってくれた。