2年間にも及んだ裁判がようやく終わり、心の冷静さを取り戻した僕は「やっぱり謝りたい」と考えるようになった。けれどLINEを送っても、一向に既読にならない。だから迷惑であることは分かっていたが、勇気を出して、2カ月ぶりに億ションを訪問した。

 恐る恐る部屋番号を押したが、返事はなかった。諦めて帰ろうと思ったそのとき、駐輪場でマンションの共通の知り合い(年配の男性)と鉢合わせた。

 過去にこの男性は、僕が億ション姉さんから宅配ボックスの受け取り方法を教わってるとき、「何かお困りごとですか?」と声を掛けてくれたことがある。以降、挨拶や雑談を交わすようになった。

 僕は勇気を出して、これまでの経緯について簡潔に話した。そしてその男性に「知ってることがあれば何でもいいので教えてください」と頭を下げた。

 その男性は、近くに誰もいないことを確認した後、小声で教えてくれた。

 億ション姉さんは、1カ月ほど前に亡くなったそうだ。

ウーバーイーツ配達員が使用する配達バッグ借金を抱えるウーバー配達員と、“億ション”に住む女性。LINE交換から始まった二人の「異世界交流」が、涙と深い後悔に満ちた結末を迎えるとは… 提供=筆者

旦那の不倫で離婚
いつの日か娘と暮らすのが夢

 億ション姉さんには旦那さんがいたが、別居中だった。不倫が原因と聞いていた。自分が病気に苦しんでいるのに、夫が闘病期間中に何十万円も他の女性に貢いでいたことが発覚。鍵を取り上げ、家から旦那さんを追い出したと言っていた。

 億ション姉さんには3歳の娘さんがいた。体調不良のため子育ては難しく、両親とは不仲のため、断腸の想いで旦那のところに預けている。病気が治ったら離婚の手続きをして、娘と一緒に暮らすのが私の夢だと話していた。