もう1つは、韓国企業や台湾企業の台頭だった。当時、日本の半導体産業の主力商品はDRAM(ディーラム)だった。DRAMとは、メモリ半導体の一種である。構造が単純で、低コストで大容量の製品を製造できるという特徴を持つ。「アンチダンピング法」を根拠にして、DRAMに最低価格制度が導入された。日本が販売価格維持をしている間に、さらに安くDRAMを製造する韓国企業サムスン電子などが台頭した。
半導体再興を目指した
エルピーダメモリが破綻
1996(平成8)年に「日米半導体協定」は終了した。その時点での日本の半導体のシェアは約30%まで下がり、その後も低下の一途をたどる。
1999(平成11)年12月、日本のDRAM事業の再編が行われた。NECと日立製作所が事業統合を行い、2000(平成12)年5月には「エルピーダメモリ」が誕生。しかし経営ははかばかしくはなかった。2009(平成21)年6月には、経済産業省から「産業活力再生特別措置法」の認定を受けた。日本政策投資銀行による増資引き受け(300億円)や、民間銀行団からの融資(約1000億円)も行われた。
その3年後の2012(平成24)年12月、エルピーダメモリは経営破綻した。負債総額は、製造業としては戦後最大の4480億円だった。
2019(令和元)年ごろ、日本の半導体メーカーの市場占有率は10%を割り込んだ。日本の半導体産業は、アメリカからのバッシングと海外企業との価格競争、そして必ずしも適切ではない政府の政策によって敗れたのである。
世界大手・台湾のTSMCが
九州の熊本に工場を建設
ところが今、まったく逆の風がアメリカから吹いている。米中摩擦のあおりを受けて、アメリカは「サプライチェーン」の見直しが急務になった。「サプライチェーン」とは、原材料の調達から生産、加工、流通、販売に至るまでの一連の流れを指す言葉。ちなみに、日本では2011(平成23)年の東日本大震災のとき以降、特に注目されるようになった。
米中対立の中でアメリカは、日本・韓国・台湾が協力して、半導体の新たなサプライチェーンをつくるよう求めているのである。アメリカの要求は、「バッシング」(たたき)から「ブースト」(あと押し)に代わった。