
終身雇用制度の実質的崩壊により、日本人の“雇用”が変化しつつある。しかし、経済学者の竹中平蔵氏は、日本の制度の欠陥が雇用の流動性を鈍らせていると指摘。日本の労働市場が抱える課題と、派遣労働に根強く残る誤解について語る。※本稿は、竹中平蔵『日本経済に追い風が吹く』(幻冬舎新書)の一部を抜粋・編集したものです。
まったく行われていない
バブル崩壊の公的な分析
日本には今、間違いなく追い風が吹いている。ただし、現状の厳しい評価にも目を向けなければならない。世界の競争力ランキングでかつて1位だったにもかかわらず2024年は38位に沈んでいる原因について、検証しなければならない。実は、日本の政策の問題点の1つは、「検証」という作業をほとんど行っていないことである。
例えば1997(平成9)年には、アジア通貨危機が発生して世界経済は混乱した。アジアの国々は、議会が特別の権限を与えた調査委員会をつくって検証した。ところが、日本はバブル崩壊後、なぜ不況が長引いたのか、何が悪かったのか、いや、そもそもなぜバブルが生じたのか、政府はその検証をほとんど行っていない。
経済学者による、さまざまなバブル崩壊の分析は出ている。しかし、経済学者に特別な権限があるわけではない。なぜバブルになったのか、私たちは何となく理解しているように思っている。実際には、わかっていないことは多い。どのような意思決定が行われたのかがキーポイントになる。権限のある委員会による検証がない限り、それはわからない。