実は、今まで大きな都市再開発が進んだ地区は、一部の例外を除いて、明快な理由がある。「日本国有鉄道清算事業団」(国鉄清算事業団)が所有していた土地だということである。

高層ビルを建てただけでは
魅力的な都市にはならない

 1987(昭和62)年に日本国有鉄道(国鉄)はJR各社に分割され、民営化された。当時、国鉄は膨大な債務を抱えていた。民営化の際には、日本国有鉄道清算事業団が国鉄の承継会社となった。そして、長期債務と固定資産などを継承した。

 国鉄清算事業団は、債務返済のために、再開発を行った。例えば、新宿駅周辺、飯田橋駅周辺、汐留周辺である。広いまとまった土地の再開発が行われた。しかし、概して魅力的な街にはなっていない。

 なぜか。理由は明白である。高層ビル群を建てただけだったからである。人が集まって、賑わいのある街をつくるというコンセプトが欠けていた。汐留が典型的で、ビルが林立しているだけの場所になった。

 民間事業者が行った都市開発には、明確なコンセプトがある。

 例えば、三井不動産が開発して2007(平成19)年に開業した六本木の「東京ミッドタウン」は、もとは自衛隊基地だった。街のコンセプトは「JAPANVALUE」。

 東京が国際都市としての競争力を飛躍的に高めていくために、働・住・遊・憩が高度に融合し、世界中からさまざまな人や企業が集まり、新たな価値創造の舞台となる「経年優化の街づくり」を目指した。東京ミッドタウンのホームページにはそう記されている。

 森ビルは、200を超える地権者を説得してまとまった土地をつくり、長い期間をかけて2003(平成15)年に「六本木ヒルズ」を完成させた。「文化都心」というコンセプトのもと、六本木ヒルズは、オフィスや住宅、商業施設、文化施設、ホテル、放送センターなど、さまざまな機能が複合した街になっている。

 2023(令和5)年11月には、森ビルの「麻布台ヒルズ」が開業した。地権者は300を超え、30年の歳月をかけて開発を進めてきた。