こうした消費生活の大きな変化を捉えたのが、本稿のテーマである「リキッド消費」というコンセプトです。リキッドは「液体」という意味ですから、リキッド消費は「液状化した消費」という意味です。それは「消費の流動化」であり、「気まぐれな消費」といっても良いでしょう。
「所有しないで消費する」
リキッド消費の3要素
リキッド消費の例をいくつかあげてみます。たとえばファスト・ファッションが浸透することで、私たちは洋服を気軽に選べるようになりました。しかしその結果、洋服に対して以前よりも気まぐれになった気がします。SNSなどの影響で突如注目を浴び、「にわかファン」が一気に増える現象も珍しくなくなりました。流行や興味関心についても、いっそう気まぐれになったようです。
自動車を保有せずに、カーシェアリングを利用する人も増えました。また自転車のレンタル(シェアサイクル)も、街でよく見かけるようになりました。旅行に行くときにスーツケースをレンタルする人も増えたようです。世の中全体を見渡すと、サブスクリプションが普及し、「所有しないで消費する」ことも浸透しつつあります。
さらに、何かを消費するときに、物に頼らなくなったことも忘れてはなりません。ストリーミング・サービスが普及し、CDを目にすることも少なくなりました。以前はポイントを貯めるときにレジでカードを提示していましたが、いまではスマートフォンのアプリです。
こうした消費生活の大きな変化を捉えたのが、「リキッド消費」というコンセプトです。

「リキッド消費」とは、
(1)その時々で欲しいものが変わる(短命性)
(2)わざわざ買わなくても、レンタルやシェアリングでよい(アクセス・ベース)
(3)物にこだわらず、むしろ経験を大切に思う(脱物質)
という3つの要素によって特徴づけられる消費のことです。
リキッド消費というコンセプトは、バーディーとエカートというイギリスの研究者によって2017年に提唱されました。アカデミックな領域では比較的新しい考え方ですが、すでに今日のマーケティング研究や消費者行動研究の基盤となりつつあります。