変化のうしろには「競争社会ならでは」の事情がある。

 アメリカの職場も1970年代ぐらいまでは「サー(Sir、男性)」や「マダム(Madam、女性)」を使ったり、苗字にミスターやミズ(ミセス、ミス)の敬称をつけるのが主流だった。

「プロとして対等」だから
敬称は使わない

 ファーストネーム(名前)呼びに変化したのは、多様化するアメリカ企業で、「採用時の差別をなくすため、年齢や性別を聞いてはいけない」「世界から社員が集まるので、ファーストネームのほうが覚えやすい」などの背景がある。

 しかし、それだけではない。職場内で互いに「対等な関係を築きたい」とのこだわりも大きいのだ。

「社内で一緒に仕事をしている人に、ミスター、ミズと敬称呼びすると、自分が劣っていると示すことになる」

 こう説明するのは、コミュニケーション・コンサルティング会社CEOのジョディ・グリックマンだ。

 アメリカの会社にも上司と部下の関係性はあるが、ジョブ型雇用により、1人ひとりがそれぞれの持ち場で職務を遂行する、「プロ」とみなされる。

 だから、リーダーは決定権や責任があっても、部下と上下関係ではなく、親しみやすく打ち解けた雰囲気で接する。

 年齢や役職にかかわらず、「あなたと私はプロとしては対等」との考え方がファーストネーム呼びに表れている。

 一方、日本の職場はむしろファーストネーム呼びが避けられる。逆に最近、名字に「さん」付けで呼ぼうという動きが広がっているのだ。

沈黙は「金」ではなく
「何も考えていない」だけ!?

 世界標準のビジネスエリートは、議論やディベートが得意中の得意。

 それもそのはず。保育園や幼稚園では「Show and Tell(ショー・アンド・テル)」と呼ばれる、自分の好きなものをみんなの前で説明するプレゼンをして育ち、幼少のころから人前でのスピーチにも慣れっこだ。

 そんなふうに、話すことを得意とする人たちのなかでは、「黙っていること」の解釈がずいぶん違う。

 アメリカの大学院で文化人類学を学んでいたとき、クラスメイトと「沈黙は金」について議論になった。

 日本でもよく知られているこの言葉は、イギリス出身、18~19世紀の歴史家トーマス・カーライルによる。「余計なことを言わないほうがいい場合もある」という意味をこめて「沈黙は金、雄弁は銀」と言った。