2011年に初めて明文化された
義歯ケアの科学的ルール
高齢の人は義歯を装着していることが多いので、当然のことながら、義歯の汚れにも注意を払わなければなりません。
歯に付着するプラークと同じように、義歯にはデンチャープラークが付着します。
粘膜や歯肉など、表面がやわらかい物に対しては細菌が付着してもすぐに剥離してしまうので、増殖してプラークを形成することはないのですが、歯や義歯など、かたい表面では形成されてしまいます。
歯に付着するプラークはう蝕や歯周病の原因になりますが、デンチャープラークは義歯の下の粘膜に炎症(義歯性口内炎)を引き起こす原因となり、義歯から遊離した細菌は誤嚥性肺炎の原因となります。
したがって義歯の清掃や義歯の取り扱い(義歯ケア)は大変重要です。にもかかわらず、その科学的なガイドラインが作成されたのは2011年と、比較的最近のことなのです。
ここで、そのガイドラインが出されたアメリカに目を向けてみましょう。アメリカでは無歯顎者の割合は減少を続けていますが、人口自体が大きく増加しているため、今後数十年間に関しては無歯顎者の数は変わらないか、増加していくと考えられています。
日本でも無歯顎者の割合は年々減少していますが、高齢者人口自体の増加により、当面、実数はさほど減少しないのではないかと考えられます。
2011年にAmerican College of Prosthodontists(義歯やインプラントの専門家である補綴歯科専門医の教育や認証を行っているアメリカの団体)は、補綴歯科専門医から一般の歯科医への発信として、これまで明確にされていなかった義歯のケアについて、エビデンスに基づいたガイドラインを策定し(Evidence-based guidelines for the care and maintenance of complete dentures(注4))、アメリカ歯科医師会雑誌に発表しました。これは全部床義歯(総義歯)に関するガイドラインです。
部分床義歯(部分入れ歯)のケアについては、義歯の汚れや適合だけでなく、支台歯の歯周病やう蝕に関することも重要になります。
ただ、部分床義歯の場合も、義歯ケアに関してはほぼ変わりはないので、全部床義歯か部分床義歯かにかかわらず、このガイドラインを可撤性義歯(編集部注/患者自身が取り外し可能な入れ歯のこと)全体に拡大し理解することで問題ありません。