実際にロシアによる東ヨーロッパへの勢力拡張に対しては、主にアメリカやEU・イギリスなどがウクライナ側に立ってロシアを抑え込もうとしてきました。
また中国に対しても、アメリカ、日本、オーストラリア、インドによる「QUAD」という協力の枠組みなどがつくられています。
アメリカが、一昔前までのように世界の問題に関与できなくなる分、「同盟のジレンマ」のなかでアメリカは「巻き込まれ」を恐れ、同盟国が「見捨てられ」を恐れることになるといえます。アメリカ以外の日本などの国ががんばらなければならない割合が増えてきているわけです。
たしかに、19世紀ヨーロッパ流の勢力均衡が失敗し、「安全保障のジレンマ」の極限状態である「脆弱性による戦争」として第一次世界大戦が起こったことを振り返ると、これまでのアメリカなどによる動きが心配になるかもしれません。
合理的に考えて自国の安全を高めることになるはずの選択が、相手国にも安全のための合理的な対抗措置をとらせ、結果的にお互いの安全を低下させることになる。
さらに、相手に対し手を出さなければ弱みを抱える自分がやられるという恐怖から、戦争に入っていかざるをえなくなる、ということです。
ヒトラーと取引した
チェンバレンの失敗に学べ
しかし、ロシアや中国の動きは「脆弱性」というより、チャンスがあれば積極的に打って出ようとする「機会主義」にもとづいているとみることができます。
とすると、ここで思い出すべきなのは「ミュンヘンの教訓」(編集部注/1938年のミュンヘン会談で英首相チェンバレンがヒトラーの要求に従い、チェコスロバキアのズデーテン地方の割譲を認めた結果、ナチスのさらなる侵略を招いた)ということになります。一度でも侵略者の言いなりになってしまえば、さらなる侵略を誘発するだけになるという教訓です。
今求められているのは、ロシアや中国が怖がって先に手を出してこないようにするために、これらの国ぐにを安心させる「安心供与」や、さらにこれらの国ぐにを宥め、その言い分を聞く「宥和」ではなく、脅しをかけてでもこれらの国ぐにの行動を抑え止める「抑止」だと考えられるのです。