一方、ロシアも中国も核兵器保有国ですので、核を撃てば核で撃ち返すと脅すことで相手の核攻撃を抑止する「核抑止」を確保し、これらの国ぐにの核兵器使用を封じる必要があります。

 ここには同盟国などへの「拡大抑止」も含まれます。そのうえで、「安定・不安定のパラドックス」、すなわち核の撃ち合いになる可能性が下がる反面、限定的な紛争が起きやすくなる事態に対応するため、通常戦力で力のバランスをとることも求められるでしょう。

 今も続いているロシア・ウクライナ戦争は、ロシアが強迫観念じみた「将来の危険」を重視して「紛争原因の根本的解決」にこだわり、これに対しウクライナが抵抗を続ける限り、終わりはみえません。

「戦争終結のジレンマ」のなかで、ロシアが「現在の犠牲」に耐えかねて「妥協的和平」に傾くことが望ましいのですが、現実にはなかなか厳しい状況です。

 ただ、ウクライナや西側が「現在の犠牲」を避けようとして軽々に「妥協的和平」に進んでしまうと、力による一方的な現状変更が許されるという「将来の危険」に、世界全体がさらされることになるといえます。

 イスラエル・ガザ紛争については、イスラエルがあくまで「紛争原因の根本的解決」にこだわり、戦闘を再開する可能性も考えられます。

 その場合、もし紛争がイスラエルとガザのあいだのものにとどまらず、ハマスの背後にいる地域大国イランと、イスラエルを支援する立場にあるアメリカとの戦いにエスカレートすれば、世界はさらなる混乱の渦に巻き込まれていくことになるかもしれません。