
伝説の編集者として知られる鳥嶋和彦さんは、漫画家・鳥山明さんを見いだして『Dr.スランプ』『ドラゴンボール』を、ゲームに先見の明があり『ドラゴンクエスト』シリーズを手掛けた。その後、編集部を離れたものの、立て直しのために『週刊少年ジャンプ』第6代編集長に就任。『ONE PIECE』『NARUTO-ナルト-』など数々のメガヒットを世に送り出してきた。現場の才能に全幅の信頼を置き、必要なときには毅然と手を打つ――「部下に任せて、部下を守る」リーダーシップとは。(ライター 池田鉄平、ダイヤモンド・ライフ編集部)
どうしたら
部下を信じて任せられるのか
――管理職が「まるで罰ゲーム」と言われる時代です。「課長や部長になったけれど、マネジメントが難しい」「部下をどう叱ればいいのか分からない」と悩む人が大勢います。鳥嶋さんの経験からアドバイスをいただけますか?
それはまさに、僕が『週刊少年ジャンプ』の編集長として戻ったときの経験に重なりますね。一度は離れた僕が、立て直しのために復帰したとき、編集部は疲弊していました。
当時の編集長は部数の回復ばかりに目を向け、「売れる漫画を作れ」と現場にプレッシャーをかけ続けていた。その結果、編集者たちは萎縮し、アイデアも出ない。新企画すらトップダウンばかりで、部内の空気は最悪、部数もどんどん落ちていた。
そこで僕がまずやったのは、そうやって進めていた企画をすべてリセットすること。そして編集部のメンバーにはこう伝えました。「今、君たちが何もしなければ、この雑誌は終わる」と。
ただし、売れる漫画を作れではなく、「面白い漫画を作れ。君たちが惚れ込んだ漫画家の才能を信じて形にしてほしい」と伝えた。
当然、それには時間がかかるので、すぐに結果が出るわけではありません。でも、外部からの数字や評価は全て僕が引き受け、現場に響かないようにした。
そうして1~2年後、『ONE PIECE』や『NARUTO』といった作品が生まれた。ヒットが1本でも出れば、他の編集者も「自分が担当する作家だってすごいんだぞ」といった連鎖的な自信が芽生える。その空気が、組織の勢いをつくるんです。
――とにかく空気を変えて、組織の再生につなげたんですね。そこまで危機的状況ではなくても、リーダーに絶対必要なスキルって何だと思いますか?