それというのも、山下亡き後のアラビア石油は徐々に勢いを失っていったからです。創業メンバーで4代目社長の水野惣平氏が1976年に退任した後は、通商産業省(現・経済産業省)出身者が歴代社長を務め、官僚の「天下り先」としての色が濃くなります。
後継の経営陣は既得の高収益に安住し、新たな成長戦略を描くことができませんでした。その限界は、中東の石油開発利権の延長交渉にも表れます。2000年、サウジアラビアとの利権延長交渉が決裂し、契約更新に失敗。2003年にはクウェートとの利権延長にも至らず、2008年1月4日、中東からの撤収を余儀なくされたのです。
この連載では、山下太郎の波乱万丈の生涯を描いたノンフィクション小説『ヤマ師』の印象的なシーンを取り上げ、彼の大胆な発想と行動力の核心に迫ります。失敗を恐れず、国益を背負い、情熱を燃やし続けた一人の男の足跡は、今の時代だからこそ、もう一度“表舞台”に引っ張り出す価値があると考えたためです。
日本の経営者やリーダーはフロンティアスピリットを失いつつあると言われることがあります。彼の挑戦は、今日の経営者・起業家にとって、混迷する時代にあっても貫くべきビジョンとは何かを考えるヒントになるはずです。
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